どちらにもなりたくない僕は本当は何にでもなりたい
「君はこれから、地上に新しく生まれてくる生命だ。さて、性別は何にする? 男と女、どちらがいい?」
「どちらにもなりたくない。男でも女でもない方がいい!」
「どちらも選ばないのは無しだ! ほら、地上では男も女もみんな辛い思いして頑張っているのに、一人だけどっちも選ばないなんて、卑怯だ!」
天使とやりとりをしていると、そこへ一人の女性が現れた。
「天使さん。私から一つ、お願いがあります」
「こんな時に地上の若い女か。で、何の用だ?」
「この子のお願いを聞いてあげてください。男と女、性別の違いのせいで、男の人は男にしかなれず、女の人は女にしかなれない。そのせいで今、地上では多くの人が苦しんでいます。せめてこの子だけでも、辛い思いはさせたくないのです」
しかし、天使は聞き入れなかった。
「だめだ! そんな身勝手なわがままを受け入れたら、お前たち人間は滅んでしまう!」
「嫌だ、どちらにもなりたくない! 僕は、何にでもなりたいんだ!」
「黙れ!」
意見を聞いてもらえないばかりか、天使に無理矢理 性別を決められ、僕は地上に生まれてきた。
なりたいわけでもない勝手に決められた性別のせいで、僕は今まで散々嫌な思いをしてきた。
でもママは、僕が泣いている時も、はっきり思いを伝える時も、いつも優しくしてくれた。
「男の子だろうと女の子だろうと関係ないわ。あなたの性別は簡単には変えられないけど、あなたは何にでもなれる。男にも女にも、あなたのなりたいように、何にでもなっていい。誰かを思えば、あなたの夢は必ず叶う」
いつか僕も、自分と同じように辛い思いをしている人を励ましてあげたい。ママみたいな人になりたい。それは女や母になりたいという意味ではない。ただ、男や女関係なく、苦しんでいる誰かを助けたいだけなんだ。
おわり
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