よくばり王様と禁断の月の塔

 むかしむかし。とある国に、よくばりな王様が住んでいた。

 星ぼしがきらめく夜に、王様が空を見上げると、世界にたった一つだけしかない宝……月が浮かんでいるのが見えた。

「今夜は明るい満月だ。なんて美しいのだろう」

 輝く月の美しさにすっかり見とれた王様は、いい考えをひらめいた。

「大きな塔を建てて、てっぺんまでのぼって、月を取るのだ。そうすれば、いつでもどこでもいつまでも、満月をながめられるのだ」

 次の日。王様の命令で、塔の建設がはじまった。
 それも、天にも届く高い高い塔で、造るのに何ヶ月も何年もかかるほどであった。
 一大公共事業のため、国民たちは日々一生懸命働いた。

 それから十数年の時が経ち、ようやく、巨大な塔が完成。人間たちは塔にのぼり、月を運んで地上へ持ち帰った。

「王様、月を運んでまいりました」
「ご苦労様。やはり月はいつ見ても、美しいものだな」

 大喜びの王様は、手に入れた月を我が物とし、しばらく大事に、大事に拝んだ。

 ところが、更に年月が流れた頃、王国に少しずつ異変が起こりはじめた。

 それは、ある冬の日のこと。突然、地面が大きくギシギシと揺れ出した。浅瀬には津波が押し寄せてきた。何の前触れも、まったくなく。

 だが、幸いにも被害は小さく、犠牲者は一人も出なかったため、すぐに人びとは普段通りの生活へ戻った。

 しかし安堵も、ほんの一瞬だけだった。

 冬とはいえど異様なことに、今年は日が沈むのが早すぎる。

「うそ、もう日が暮れてるじゃない」
「あれ。いつもの冬って、日が落ちるのこんなに早かったっけ」

 人びとはおかしいと騒ぎながら、急ぎ足で家へ帰った。
 その途中にも、徐々に日が登ってまた昼になった。

「なんだ、気のせいだったのか」
「さて、仕事に戻ろう」

 夢だと思い込んで安心した人びとは、仕事に戻ろうとした。しかし突然、また日が沈んで夜になった。

 いきなり昼になったり、夜になったりを何度も繰り返していくうちに、寒い冬は終わり、突然暖かい春が来た。
 しかし、その春もほんの数日間しかなかった。
 春が終わって夏が来て、さらに夏が終わって秋が来た。それから一ヶ月も経たないうちに、また冬へ戻った。

 ところが、本当に恐ろしいのは、ここからだった。

「隕石の接近が観測されました。このままでは地表に衝突して、甚大な被害をもたらすでしょう」

 星空を観測する王立研究所からの衝撃的な発表で、王国中は不安に包まれる。
 人びとはやはり、ひたすら慌てふためくことしかできなかった。

「もはや、この世の終わりが来たのか」
「いや、悪魔か魔女の仕業かもしれないぞ」
「神が怒り狂ったすえに、ついに隕石を落とされたのだ」

 地震、津波、乱れていく時間の流れ、そして隕石接近……次々起こる異変の原因について、人びとの間で盛んに推測や考察がされるようになった。
 しかし、恐怖に駆られるあまり、人びとは肝心なことを忘れてしまっていた。

 あの日、月をとったことを。

 数日後、王立研究所の調査により、異変の原因が判明した。

「月には、重要な役割があったのです。
季節の流れを安定させ、地上を隕石から守ります。しかし、その月が数年前、我々人間によって無理矢理奪われてしまい、空から姿を消してしまいました」

 異変の張本人、王様に対して、召使いたちが月を元通りにするよう説得した。

 初めこそ王様は、美しい満月を絶対に手放したくはない、と拒んだ。しかし、召使いから月の役割の話を聞いて、ようやく説得に応じてくれた。

「わかった、すべては私のせいだ。地上に隕石が落ちてしまったら、月を見るどころではなくなってしまう。この月を、空へ戻してきなさい」

 王様は持っていた月を、家来へ渡しながら命令した。

 人間たちは月を担ぎ、またあの時の巨大な塔へのぼった。
 彼らが最上階まで近づいたとき、隕石の光がより強まった。
 隕石の衝突は、あともうすぐなのだ。

 やがて頂上までたどり着いた彼らに、今度は何もかもを吹き飛ばすほどの暴風が襲いかかる。
 あまりの風の強さにバランスが崩れそうになりながらも、何とか、力の限り、空の彼方へ、月を投げた。

 その次の瞬間。突如として、隕石が消えてしまった。
 元通りにされた月が、隕石を引き寄せて地上を守ってくれたのだった。

 同時に、先程まで猛威をふるっていた強風も穏やかになり、時間の流れも元に戻った。

 こうして再び、地上に秩序と平穏がもたらされることとなった。

「このような大惨事を二度と起こさないためにも、あの高い高い塔を、壊すのだ。そして。今後一切、建ててはならない」

 王様の命令により、禁断の月の塔は教訓を踏まえて完全に取り壊され、誰も立ち入ることができなくなった。

おわり

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