迫る氷壁
平和な村で、一人の子供が生まれた。彼は普通の子供よりも強い力を持ち、すくすく元気に育った。
しかし彼は、神からとある使命を与えられていた。もう一つ、その使命を果たしたと同時に一生を終える、という運命も与えられていた。
数年後、魔王が地上を脅かしはじめた。
勇者に選ばれた子供は、村人たちに見送られながら、魔王退治の旅へ出た。
旅中、勇者はメカニックと出会った。そのメカニックは物知りで、船を直す仕事をしているとのこと。勇者はメカニックを一人目の仲間に加えた。のちに他の仲間二人も勇者の旅に同行することとなった。
長い旅の末、勇者一行は魔王城に着いた。魔王を追い詰め、ついに魔王にとどめをさそうとした。その時、魔王が最後の力を振り絞り、氷の魔法を放った。
その衝撃波は凄まじく、勇者一行は遠くへ飛ばされてしまう。
そして魔王のかけた魔法により、地上の空気は凍り、硬い氷の壁に変えられてしまった。やがて氷の壁は、押し寄せるように大地を侵食しはじめどんどん広がっていく。
「氷の壁に飲み込まれたものは、魔法が解けるまで永遠に元に戻ることはできない」
メカニックにより、衝撃の事実が明かされる。
押し寄せる氷の壁から逃れるべく、勇者一行は昼も夜も"やり直しの谷"を走り続けた。谷を抜けて"誕生の海"に着いた後も、休まず海を泳ぎ続けた。
体も心も疲れて、泳ぐのをやめたいと思った時もあった。しかし、後ろを振り返ると、先程まで泳いでいた場所が凍っている光景を見せられ、休んでいる暇など、一刻もない現実を突きつけられた。
みんなが疲れ果てる中、メカニックが海に浮かぶ難破船を見つける。その巧みな技術力で、短時間で空飛ぶ船に改造し、勇者と他の仲間たちを乗せた。
空飛ぶ船に乗り、誕生の海を横断する間、どっと疲れが溜まっていた勇者一行はしばらく一休みする。
一方、メカニックは船に元々あった本を手に取る。本には、魔界に繋がるポータルの作り方が書かれてあった。
ポータルの欠片は全部で四つあり、それぞれ四つの大地にあるという。さらに、四つの大地を越えた先には"夜明けの森"があり、そこにあるポータルの枠に欠片をはめこめば、ポータルが起動するという。
魔王のいる魔界を目指して、勇者一行は壁から逃げつつ、四つの大地を巡ってポータルの欠片を探すことにした。
最初に"原始の海"を越え、一つ目の欠片を手に入れた。
次に"古代の大地"を越え、二つ目の欠片を手に入れた。"昨日の海"を越え、"今日の島"にたどりついて、三つ目と四つ目も手に入れた。
後戻りできない状況で、上手くいかない事も少なくなかったが、無事に四つの欠片すべてを集めることができた。
ようやく、夜明けの森へたどりついた一行。メカニックが四つの欠片をはめこむと、ポータルは解放された。一行はポータルを通り、魔界へ進入した。
ところが、魔界でも同様に、下から上へ氷の床が押し寄せてくる。氷の床が魔界の天井に追いつくまでに、勇者一行は魔王を倒さなければならない。
しかも、魔王は前回以上に手強く、勇者一行を瀕死寸前にまで追い詰めた。
それでも、勇者は諦めなかった。
「命が終わるまでに、必ず使命を果たすんだ」
勇者が立ち上がったその時、神が勇者に力を与えた。神の加護で光をまとった勇者は、光の剣を振るい、魔王を倒した。
魔王が消滅すると同時に、帰りのポータルが出現した。勇者一行はポータルを通り、地上へ戻った。地上を覆っていた氷の壁はなくなり、いつも通りの景色が広がっていた。
ところが突然、勇者が意識を失い、倒れ出した。
彼は、神から与えられた使命をすべて果たし、息を引き取ったのだ。
メカニックと二人の仲間、村人たちは勇者に感謝し、彼を讃えて立派な墓を建ててあげた。
おわり
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