絵画の中のマトリョーシカ

 これは、ある青年が書いた創作小説の一部分である。

 絵画の中のマトリョーシカ。
 マトリョーシカのようにずっと続く絵画。
 絵画は赤い本の表紙の中にあった。
 その赤い本も舞台劇の登場人物に読まれていた。

 舞台劇はある事件を描いたお話だった。
 舞台劇の登場人物は大騒ぎしている。
 その登場人物の様子を、観客は空想として楽しんでいる。
 舞台劇は、創作小説の中のお話にすぎなかった。

 その創作小説もある事件を描いたお話だった。
 創作小説の登場人物は大騒ぎしている。
 その登場人物の様子を、読者は空想として楽しんでいる。
 創作小説も、青年が描いた空想のお話にすぎなかった。

 その青年もある事件に遭い、その経験を元に創作小説を描いた。
 事件に遭ったとき、青年は大騒ぎした。
 あわてふためく青年の様子を、神は空想として楽しんでいた。
 青年も事件も、神が創造した空想の存在とお話にすぎなかった。

 神もまた別の神に、別の神もさらにまた別の神に、作られてきた。すべてが作られた空想であることも知らず、神も大騒ぎしている。
 神もマトリョーシカのようにずっと続いている。

おわり

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