一人の尊い人間

 便利な道具が真っ二つに壊れた。
 便利だけど、それ以外に用途はない。
 そんな道具の中から、一人の女が出てきた。
 それは道具である以前に、一人の女だった。

 美しい女が粉々に砕け散った。
 美しいけど、それ以外に価値はない。
 そんな女の亡骸から、一人の人間が出てきた。
 それは一人の女である以前に、一人の人間だった。

 その人間は、便利な道具であり美しい女であったのは確かだ。
 でも、それ以前に一人の人間だ。
 そして、人間というだけではない。
 強くて、弱くて、優しくて、恐くて、尊い。
 そう。その人間は、何をしても、何であっても、何になっても、尊いはずだった。

 それなのに、気づいた時にはもう遅かった……。

おわり

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