直径30㎝からの異国のメロディー
あなたには、好きな歌のジャンルはあるだろうか。
J-POP、K-POP、アイドルソングにアニソン。ヒップホップや演歌に歌謡曲。
そのジャンルの中に、それぞれ好きなアーティストがいるかもしれない。
音楽はあまり聴かないという人でも「この歌は好きだな」とか、「この歌には思い出がある」というのが1曲ぐらいあるのではないだろうか。
私の好きなジャンルは洋楽だ。
とはいえ造形が深いわけではないのだが、けれど思えば子どもの頃から好きだった。
例えば中学生のとき。
英語の授業で先生が持ってきてくれた洋楽のCDを流して、みんなで歌うのが好きだった。
ビートルズのハローグッバイ、ジョン・デンバーのカントリーロード、ワムのラストクリスマス…。
家でも母が好きだったからかカーペンターズをよく聴いたし、ABBAもよく聴いた。
極めつけはフレディ・マーキュリー。ちょうどその頃、月9で木村拓哉のプライドというドラマを観ていたのだが、その主題歌だったI Was Born To Love Youが大好きだった。
昼間、ノリノリで歌っていたら洗濯を干していた母から
「おまえ、よっぽどその歌が好きなんだね。外まで聞こえてたよ」
と言われ、さすがにちょっと恥ずかしかったのを覚えている。
それから20代後半ぐらいまでは、ドラマの影響でJ-POPを聴くようになり、興味がなくなったわけではないが、なんとなく洋楽から離れていた時期があった。
だがこの数年、レコードとの出会いで再び洋楽ブームがやってきた。
レコードとの出会いはちょっと変わったものだった。
仕事の昼休みにふらっと立ち寄った本屋で「大人の科学マガジン トイ・レコードメーカー」という、自分で組み立てる科学キットがついたムック本の、レコードプレイヤーがつくれる号を発見したのがきっかけだ。
表紙写真のレトロ感漂うプレーヤーを見たとき、心を奪われ、ぜひ自分で作りたい!と思ったのだ。
しかし、難点があった。
1つは値段だ。8,000円はしたので、すぐには買えないなと思った。
次に再生できるレコードの種類だ。
調べたところ、レコードにはざっくり分けて2種類ある。
このムック本で作ることができるプレーヤーは、サイズの関係上EP盤しか再生できないとのことだった。せっかくならアルバム1枚分は再生したい…。
というのも、レコードについて調べている中で見つけてしまったのだ。テイラー・スウィフトの「Lover」というアルバムを。
そもそもレコードは今も新しく作られているのかと疑問に思い調べていたら、黒い円盤ではなく、カラフルな円盤で今でも海外アーティストを中心に販売されているのがわかったのだ。
そしてテイラーの上記のアルバムは、ピンクとブルーの2枚組レコードだった。
かわいい。とてもかわいい…!
amazon musicで収録曲を聴いてみたが、内容もすごく良い…!
おもわず一緒に歌いたくなるようなポップでドリーミーな曲から、リラックスしながら聴きたい曲まで、自分好みのアルバムだった。
これが再び洋楽を聴きはじめたきっかけだった。
もともとメロディと異国の言葉が心地よくて洋楽が好きだったが、そこにコレクター欲をそそるレコードが組み合わされた。
なので、けっきょくお金を貯めて1万円ぐらいの手頃なレコードプレーヤーを購入し、私のレコードライフがスタートした。
もちろん最初の1枚はテイラーの「Lover」だ。それからこの4年程をかけて、やっと10枚まで集まった。(レコードはアルバムにもよるが、1作5千〜1万円以上したりする)
ちなみに、私がレコードを買うにあたってチェックしている項目が3つある。
1曲好きというだけで買うにはレコードは高いし、またせっかく買うならできればカラーレコードだと嬉しい。
そしてジャケット。約32㎝の正方形の紙ジャケットは、それだけで見栄えがしてかっこいい!そのデザインが自分好みであれば、なお良いのだ。
そんなかんじで、基本的には「自分好みか」という感覚で選んでいたのだが、最近、それプラス別の理由で興味を持ったアルバムがあった。
ビヨンセの「COWBOY CARTER」だ。
出会いはラジオ番組内の音楽コーナー。そこでまだ発売前だったこの作品について、先行シングルを流しつつ、作品の背景を紹介してくれていた。
その話によると、このアルバムはカントリーソングが詰まった作品で、発表されたときとても話題になったそうだ。
「黒人であるビヨンセが、アメリカ南部の白人の音楽であるカントリーを歌うらしい!!」
と。
しかし、もともとカントリーミュージックはアメリカに来たイギリス移民が持ち込んだ民謡と、黒人のゴスペルやブルースが合わさってできたものらしい。
またビヨンセ自身もアメリカ南部育ちということで、そう考えると彼女がカントリーを歌うことはなんら不自然ではない。
だけど現状、カントリーは白人のものという認識が強く、ビヨンセが歌うことに拒否反応もあったとのことだ。
オクラホマのカントリー専門のラジオ曲が、ビヨンセの新曲のリクエストを拒否したなどという話しもある。
私はこの話しを聴いたとき、衝撃を受けたのだ。
「歌にも歴史があるのだ!」
と。
今まで洋楽の歌詞の和訳を読んだり、SNSでアーティストが楽曲に対する想いを綴っているのを読んだりして、なんとなくその作品のメッセージみたいなものを受け取っているつもりでいた。
しかし、ラジオでこのビヨンセの新作について聴いたとき、私は感動と驚きを感じた。
カントリーが白人のものだとか、黒人が歌うと不快に思う人がいるだとか、考えたことがなかった。
自分にとって心地良いかどうかでしか、音楽を感じてこなかったから。
だけど当然全てのことには生まれてきた歴史や、今日に至る歴史がある。音楽にも。
そう衝撃を受けたとともに、それはちょっとした感動にもなった。
ビヨンセは、そんな深いメッセージ性を込めたアルバムを作ってくれたんだ!と。
そう思わせてくれた作品だったので、彼女を応援したいという気持ちが高まり、私はこのビヨンセの新作をレコードで購入した。
黒い円盤だったが、そこはまぁいい。
もっとよく内容を知っていきたい。
もっとよく聴き込んでいきたい。
そう思わせてくれる、ステキなアルバムだ。
ただ…。
ただ、1つ気になることがある。
裸なのだ。ジャケットのビヨンセ。
照れちゃうから…
見ている私が、なんか照れちゃうから…。
服、着てよぉ…!