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【エッセイレポ】油ダコは、苦い味

先日、渋谷に行った。
渋谷ヒカリエ8階で開催中の「大岩オスカール 乱流時代の油ダコ」展が目的だった。

たまたまSNSの広告で知り、その油ダコのビジュアルにやられて観に行った。
逆さにしたガラスビンから黒い液体が飛び出し、それはうねうねと動きながら8本の足となっている。ビンの中からは、真っ白な2つの目がこちらをじっと見つめている。
不気味だ。でも、可愛らしくもある。
そんな見た目に惹かれ、あまり行き慣れない渋谷までいそいそ足を運んだ。
案の定、渋谷駅から直結のはずのヒカリエに、どういう訳だが直結できずに迷子になった。渋谷は怖い。ダンジョンだ。


大岩オスカールの作品を知ったのは、もう10年くらい前になる。
黒いマスクのようなもので顔全体が覆われた犬の彫刻。そのマスクの口の先からは巨大な青い風船が伸びていた。
たしか、一日に犬が必要とする空気の量を目に見える形にした、という作品だった。
犬一匹でも巨大な風船なのだから、人間はどれくらいの空気を必要とするのだろう…と思ったのを覚えている。
そういった立体作品だけでなく、油彩画もいろいろ発表されていた。
油彩画はどれも色鮮やかで、色の強さというものを感じた。モノクロの作品もあったが、筆のタッチがそう感じさせるのか、白と黒だけでも絵の力強さを私は感じた。
それと同時に、先に記した犬の作品のように、作品から考えさせらるものもあったし、犬の顔をマスクで覆うという発想の不気味さも、うまくは言えないが当時他の作品からも感じていた気がする。


「考えさせられる」という点では、この油ダコもそうだ。
この油ダコが最初に登場したのは、1999年に作成した「水族館」という作品だそうだ。当時、未来を空想して描いたというその絵の中に、ビンから油が漏れているような、タコのような生き物が描かれていたという。

今回の展覧会では「Aquarium 2」という作品が展示されており、そこには油ダコとともに6種ほどのユニークな見た目の海洋生物が描かれている。
否。一見可愛らしいユニークな生き物に見えるが、正しくは、海洋生物の姿をしたゴミだ。
作者曰く、海に浮かんでいるよくあるゴミ(ペットボトルやビン、カン)をキャラクターにしたという。
そして、それらゴミ魚を船に乗って釣りに行く、というストーリーの、実際の映像を観ることができる。まるで本当に漁にでも行くかのような、堂々たる船出だった。

この内容からもわかるように、作者は作品を通して私たちに環境問題について提示している。
魚たちの可愛らしくユニークな姿の中に、しっかりメッセージが込められている。


それと同時に、会場を進んでいくともう一つ、忘れられなくなる作品を見つけた。
タイトルは、

「Pet Bottle Fish Sashimi」。

「Aquarium 2」の中に描かれていたペットボトルの魚が、刺身になっている。
不気味だ。その見た目が不気味だ。
私は「Aquarium 2」の魚の中で、このペットボトルフィッシュが可愛い目をしていて好きだった。
なのに、あの子は死んだ目をして刺身になった。
刺身になったあの子を食べるのは、いったい誰なのだろうか。

この絵もなかなか不気味で、皮肉な絵だ。

「大岩オスカール 乱流時代の油ダコ」展は、可愛らしさや鮮やかさの中にそれだけじゃないものがある、と感じる展覧会だった。

正直、これはどういう意味かな?と少し時間が必要な作品もあり、作品の意図を感じ取れない自分が歯痒かったりもした。
展覧会全体としては、無料だからか、コンパクトにまとまっていてすぐ一周できる規模だ。
もしまた大岩オスカールの展覧会があったら、ぜひ行ってみたいと思う。
もっと色々な作品を見てみたい。


「Aquarium 2」
左上にペットボトルフィッシュ、中央下に油ダコ



その帰り、小腹が減ったのでたこ焼きを食べた。
外はカリカリ。中はとろり。
明太チーズのトッピングがちょっとピリっとして、おいしかった。

だけど、油ダコは食べたらきっと苦いんだろうな。
ペットボトルフィッシュも、きっとそうだ。

しかし、その苦さは私たち自身のせいなのかもしれないな。







刺身になった、可愛いあの子


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