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#3 スーパーのSuper店員

初めて見たとき、ディズニーランドのキャストさんのようだ、と思った。

近所のスーパーマーケットの店員さんたちは皆優しくて丁寧な方が多いが、彼女の業務はいわゆる「神対応」と呼ばれるものなのだろう。

眼鏡をかけた色白のお姉さん。私と同じ大学生にも見えるくらい若いけれど、店員としての対応の秀逸さは正社員にしか見えないので、学生バイトではないだろうと踏んでいる。

ある時は店の入り口でカートを並べながら、よく通る声で「いらっしゃいませ」と言ってくれる。ある時は「こちらのレジへどうぞ」と空いているレジ列へ案内してくれる。またある時はレジで客の会計をしていたかと思えば、次見たときには瞬間移動したかのようにサービスカウンターで別の客の対応をしていた。

そして先日また、私が並んだ隣のレジに彼女を見かけた。会計をしていた客は小さい男の子を連れた母親で、カゴの中の商品がたくさんある。長い会計に退屈したのか、男の子がそこで遊びまわり始めた。ガタン、と音がした方向を見てみると、男の子がレジのアクリル板を倒してしまっていた。

「ちょっと、もう、ばかたれ!」と叫ぶ母親をよそに男の子は動き回り続ける。でもお姉さんは動じず、にっこり笑顔で「お怪我はありませんか、大丈夫ですよ、少々お待ちくださいね~」と、アクリル板をあっという間に立て直す。マニュアル化されたようにスラスラと発せられる台詞。だがその言葉には、その場のざわめきを落ち着かせるような優しさがあった。(noteの字面だけだと彼女の口調がいかに優しいかが伝わらないのがもどかしい)

おそらくほかの店員と、大きく異なる業務はしていないはずだ。でも、私たち一般客が受け取る印象はだいぶ違う。その違いはきっとささやかなことだ。笑顔、声のトーン、心配り。混雑する時間帯でもそれらを途切れさせない安心感。そんな彼女を見かけると嬉しくなるし、優しく声をかけてもらえるとまた来ようと思える。


再びコロナの感染が拡大してきて、不要不急の外出が敬遠されるようになってきている。そんな状況でも、スーパーマーケットは地域の誰もが足を運ぶ場所だ。うんざりするような日常の中でも夢の国のようなおもてなしをしてくれる人こそ、この時代を支えてくれるのだろう。

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