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ゆらゆら帝国⑧「な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い」

アルバムについて

所持:済
好き度:★★★

2003年に発売されたメジャー後初のライブアルバムで、同年の5/30の恵比寿ガーデンホールでの公演を音源化したものである。以下は、当時のライブの全体のセットリストである。

・5月30日ゆらゆら帝国@恵比寿ガーデンホール/セットリスト

M1 午前3時のファズギター
M2 ハラペコのガキの歌
M3 ハチとミツ
M4 誰だっけ
M5 侵入
M6 無い!!
M7 バンドをやってる友達
M8 ドア
M9 恋がしたい
M10 傷だらけのギター
M11 夜行性の生き物3匹
M12 貫通
M13 ボタンがひとつ
M14 わかってほしい
M15 昆虫ロック
M16 ラメのパンタロン
M17 発光体
M18 つきぬけた
M19 3X3X3
M20 ゆらゆら帝国で考え中
M21 星になれた

第1回 ─ ゆらゆら帝国@恵比寿ガーデンホール 2003年5月30日(金)
bounce ライヴ&イベントレポ
https://tower.jp/article/series/2003/06/18/100045627

タイトルの通り、ライブ公演のうち当時の新作だった「ゆらゆら帝国のしびれ」「ゆらゆら帝国のめまい」の曲から中心に収録されている。
全編通してコンプレッサーが強くかかったような潰れ気味でノイジーな音質が、ライブの熱量をそのまま閉じ込めたかのような臨場感と迫力に溢れている。

収録曲のアルバム版での感想は以下の記事にて書いているのでそちらもご覧ください。


曲ごとの感想

01.イントロダクション ~ ハラペコのガキの歌

坂本さんの掛け声とともに信じられないくらい爆音のギターが飛び出す衝撃の一曲目。これは当時セトリの1曲目である「午前3時のファズギター」のソロパートを抽出したもので、ベースのラインからなんとなくわかる。ライブ版では更に長くて激しいソロを行うのだが、その迫力が本作特有のミックスでより音圧がかかって聴くことができるのがいい。

ギターソロが終わり、フィードバックが鳴り響くと、リズム隊はぬるっとリズムを変えてシームレスにハラペコのガキの歌へと変わる。このライブ特有の曲の繋がりがとてもかっこいい。
音源では地声に近いキーだったためかライブではキーを変えて演奏されている。リバーヴが深く一発一発が重たく聞こえるギターが曲のシリアスさをより深めているようだ。

ちなみにこのライブ版では音源後半の「何よろこんでるんだ…」と歌っている部分は省略されているようだ。

02.誰だっけ?

「しびれ」収録曲。
ミックスが独特な曲だったが、ライブではギターのバッキングが荒々しいガレージサウンドに変貌している。音源でのダークな雰囲気はそのままに、疾走感あふれるバンドサウンドになっていてとてもかっこいい。

03.侵入

「しびれ」収録曲。
反響を排除したようなデッドな音が特徴的だったが、ライブならではの反響が壮大なスケールを感じさせる音源となった。音源でのコーラスなどの音がギターで代用されてよりギターの音が増えたアレンジになっている。

04.無い!!

前曲から繋ぐように始まる。「しびれ」のラスト曲で、ミニマルな演奏や反復するフレーズを使用した曲だったが、ライブ版だとかなり印象が変わる曲だ。
ライブではより激しい演奏となり、ギターもより歪んだ音で鳴らされる。シンセで演奏されていたであろうフレーズはベースが黙々と弾き続ける中で、ドラムとギターのプレイによって元々の音源になかった抑揚が足されたかのようだ。

この曲のライブ版の驚くべきところは、音源でも特徴的だった変拍子のギターフレーズをそのまま弾きながら坂本さんが歌っているという所であり、その難易度の高さと坂本さんのリズム感覚には毎回聴くたびに驚かされる。
曲が進むにつれてどんどん盛り上がっていくアレンジは、曲のスケールの大きさがより広がったかのようで、特に後半も後半のあたり、一度ドラムが抜けて静かになり、ドラムが始まっていよいよラストスパートともいえる部分の盛り上げ方やアレンジもはや感動的ですらある。

05.バンドをやってる友達

「めまい」収録曲。
アルバムでは、1曲目にも関わらずメンバーではない女性が歌うという衝撃の展開を魅せた曲だったが、ライブでは坂本さん本人が歌っている。
元々が非常にシンプルな演奏だったこともあり、ライブ版も雰囲気を損ねない程度にシンプルで素朴なバンド演奏になっている。

06.恋がしたい

こちらも「めまい」からの選曲で、この曲もアルバムでは女性が歌っていたものをキーを変えて坂本さんが歌っている。
本人が歌うことで、よりこれまでのゆら帝の曲ではあまりなかった特異なメロディアス性を感じられる気がする。

07.夜行性の生き物3匹

「しびれ」からの選曲。
元々が従来からのバンドサウンドらしいアレンジだったこともあり、そこまでライブ版ではアレンジに違いが無いが、間奏でのスローになる部分がより強調されて、より遅くなっているのが本当に一瞬が時が止まったかのような感覚になる。

08.貫通

「しびれ」からの選曲だが、ライブではシングルバージョンに近い演奏になっている。

この曲の特徴と言えばあの耳をつんざくような轟音の間奏だが、今作のライブ音源では編集によって間奏に入った時にノイズが入ってまた間奏に戻るアレンジがなされている。今作のミックスも相まってひどく潰れたもはやノイズに近い演奏は聴いていて初聴きは驚くし、かなり圧倒される。

09.ボタンが一つ

「めまい」からの選曲。アルバムでは子供が歌っていたことでかなり印象的だった曲だが、こちらも本人歌唱によるライブアレンジ。このライブバージョンもアルバム版とは違った哀愁が漂っていて切ない。

10.星になれた

アルバム「めまい」でもラストだったこの曲だが、本作及び実際の公演でもラストを飾った曲である。

音源ではストリングスのアレンジが入った壮大な曲だったものをライブではしっかり三人のバンドサウンドのみによるアレンジで披露されるが、アルバムに負けないくらい音圧があってこちらも迫力がある。間奏でのストリングスのメロディはギターによって代用されているのだが、これがゆら帝では珍しい泣きのギターソロでここもかっこいい。

極めつけは最後のメロディでのボーカルアレンジで、「羽をみがいているような」の部分をメロディを上げて歌っているという熱唱ぶりでとても感動的。
そこからのアウトロはクライマックスと言わんばかりの激しい演奏だが、コンプレッサーで潰れまくっているせいでどう演奏しているのかわからないレベルで歪んでいる。力のこもった名演だ。

まとめ

本作が発売された経緯として、「アルバムの二枚同時発売でファンに迷惑をかけた」という坂本さんの意向があるようで、実際本作の価格は比較的安価に設定されて発売された。

それともう一つ今作には、「しびれ」「めまい」がバンドサウンドから大きく外れた実験的な作風が目立っていたため、実際のライブでの演奏を音源化して作風の変化ぶりを和らげようしたのではないかとも感じた。
ライブアレンジされたこれら二作の曲たちは大きくアレンジが変わっていてもまた別のかっこよさがあったり、アルバムとは違った良さを感じる曲ばかりで、完全に別の作品としても楽しめるようになっている。

特に初聴ではほとんどの人が驚き戸惑ったであろう「めまい」での女性ボーカル3曲は全て今作に収録され、本人が歌うことによってアルバムとはまた違った印象を受けて良かった。アルバムではバンド感が薄かった「無い!!」「星になれた」などもライブアレンジによってかなり化けたとも感じる。

また、冒頭でも説明した本作の特徴である極端に音がつぶれたようなミックスもライブならではの荒々しさや、ゆら帝がまとうアングラ感をより強調しているようでとても好きなミックスだ。このような編集があることで、ライブを録音しただけのただのライブアルバムではなく、ライブを題材とした一つの作品として十分に楽しむことができる。だからこそ、この日に演奏された全曲を聴いてみたかったというのは流石に贅沢か…。しびれめまい以前の曲はまだしも、「ドア」なんかは正にこのミックスに映えそうな曲なだけにとてももどかしい気持ちである。

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