見出し画像

更年期と関連疾患ー微小血管狭心症

微小血管狭心症という疾患を聞いたことはありますか?

更年期世代の女性の10人に1人の割合で罹患していると言われている割には循環器内科の医師にも婦人科の医師にもあまり知られていない心疾患です。

助産院ハイジアにもご相談が寄せられます。

病院を受診しても「異常なし」と言われ、ネットを探して探して「自分の症状にぴったりとあてはまる、私は微小血管狭心症だ」と思い「さらに探して助産院ハイジアのコラムにようやくたどりついたと」言われることがあります。

医師によっては最悪「気のせい」で済まされてしまうので、症状だけでなく精神的にも心の痛みを感じている方がとても多いのです。

看護者には、この病名と今の所の対処法を知っておいていただき、支援者になってほしいと思います。

では、微小血管狭心症について今の所私の得ている情報をお伝えいたします。

助産院ハイジアHPコラムと重なるとこともありますが、こちらでは看護者向けに詳しく書いていきます。



まず微小血管狭心症について、日本心臓財団のHPから「微小血管狭心症をご存じですか」樗木晶子(九州大学大学院医学研究院 保健学部門)先生の記事をわかりやすいように引用させていただき説明したいと思います。


微小血管性狭心症とは

微小血管狭心症の定義は、弁膜症や心筋症などの心臓の病気がまったくない方で、直径が100μm以下(髪毛の直径にほぼ等しい)の微小な冠動脈の拡張不全、収縮亢進のために心筋虚血が一時的に起こることによって胸部圧迫感が労作と無関係に安静時にも起こる狭心症

原因

発症する年齢は30代半ばから60代半ばで動脈硬化による狭心症に比べると若く、最も多いのは40代後半から50代前半の女性です。この時期はエストロゲンが減少し始めるとともに人生においても様々な問題をかかえ心臓に限らず心身の不調を感じる時期とも重なっています。
冠攣縮狭心症と同じように喫煙、寒冷、精神的ストレスなどが誘因となることも知られています。まだまだ、はっきりとした原因解明には至っていませんが、女性ホルモンが関与していることは確実なようです。

症状

呼吸困難感、吐き気、胃痛などの消化器症状、背部痛、顎やのど、耳の後部などへの放散痛、動悸など多彩な不定愁訴であることが多く、その持続時間も数分ではなく数時間に及ぶ

安静時、朝方に症状が出ることが多い。

症状が出ると心臓に関わることなので、生命の危険を感じます。一度治まっても、またいつ痛みに襲われるのだろうという不安にとらわれます。

病院を受診し、心電図をとっても異常はなく(発作時ではないから)、心エコーなどしても異常なしと言われなかなか理解してもらえず、医師によっては「気のせい」とか「神経質」で済まされて孤立感も感じます。

(私も自分で微小血管狭心症だろうと思っています・・・医師に話しても取り合ってもらえない経験をしています。また相談を受けると同じように精神的にも辛いと聞きます)


診断

発作時も心電図の変化に乏しく、心臓カテーテル検査による冠動脈造影によってもはっきり冠動脈の狭窄がみられないことが多いので診断に時間を要しますし、診断されてないこともある

鑑別診断
動脈硬化性または冠攣縮性の狭心症、逆流性食道炎

予後

女性の微小血管狭心症の多くは、カルシウム拮抗薬に反応が良く症状も軽快し、その後、心筋梗塞や脳血管障害などを起こすことは少ない

とされてきましたが、最近は「一般的に予後(病気に関する将来の医学的な見通し)は良好とされていましたが、健康な人より心血管イベント(心筋梗塞や心不全、突然死など)のリスクが高いことがわかってきました。」という見解もあります。

微小血管狭心症の予防

①医師も皆様も更年期前後の女性にこのような診断のつけにくい微小血管狭心症があることを知っておくこと

②血管内皮に障害をきたす原因になる高血圧、脂質異常症、糖尿病、メタボリック症候群などを適度な運動と食事で予防し、大量飲酒や喫煙をしないこと、ストレスをため込まないことで微小血管狭心症の発症も避ける

③エストロゲンに似た作用を持つイソフラボンは大豆などの食品に多く含まれ、わが国の伝統的な和食には多くの大豆食品があります。サプリメントなどをのまなくても日頃の食生活を見直す

微小血管狭心症の治療

薬物療法


①ニトロよりカルシウム拮抗薬であるジルチアゼム(ヘルベッサー)などのほうが特効薬である

②「ホルモン補充療法ガイドライン 2017年度版」のP105に「CQ107 冠攣縮および微小血管狭心症に対しHRTは有効か?」のANSWERとして「有効であるとする報告はあるが、積極的に推奨するだけのエビデンスに乏しい」と記述があります。現状、ホルモン補充療法を微小血管狭心症の治療として選択しない医師が多いです。

残念ながら微小血管狭心症を完全に治す治療は、残念ながらありません。

必要なことは、重大な心血管イベント(急性心筋梗塞や心不全の発症、心臓血管病による死亡など)の予防および胸痛発作予防と生活の質(QOL)の改善です。

動脈硬化の危険因子(高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙)をお持ちの場合、それらの管理・治療も重要と言われています。

問診

① 身長・体重 BMI
② 胸痛発作の状況
  いつごろから、いつどのような時、痛みの場所、痛みの持続時間
  *心電図が測定できるスマートウォッチがあれば、記録の有無
  救急車や救急病院受診の有無と診断
③ 喫煙の有無
④ 月経の状況(閉経しているか、月経不順ではないか)
⑤ 既往歴
  糖尿病・脂質異常症(特に高LDLコレステロール血症)・高血圧症
⑥ 睡眠・精神的状況

微小血管狭心症の看護

微小血管狭心症自体診断がつきにくく検査入院以外での入院もないでしょうから看護師が患者さんに接することはほぼないでしょう。
狭心症の看護についてはありますが、微小血管狭心症の看護について書かれているものはありません。

以下は私の見解です

①上記問診を丁寧にすること(特に閉経・月経の状況)
②喫煙している人には禁煙を勧める
③適正体重を保つことの指導
④毎日の血圧測定を勧める
⑤生活習慣を整えることの指導(食事・運動・睡眠・ストレス)
⑥セルフケアの指導をする
 患者さん向けのセルフケアの詳細をこちらに書きました、参照にしてください

⑦不安や孤独感などに寄り添う・カウセリング
 これからの課題ですね。

⑧心電図を測定できるスマートウォッチを持っている方には、胸痛発作時の心電図を記録しておき、受診時に提示することを指導する
 (直接診断はできないが、他の疾患の鑑別の参考になる可能性あり)

⑨下記のサイトを参考に専門の医師に受診を勧める

日本冠微小循環障害研究会 (J-CMD)
▼微小血管狭心症の検査が行える医療機関

或いは女性専門外来の受診を勧める


今後の展望

今後、微小血管狭心症の基礎研究がさらに進んで確実に診断できる検査法の開発がのぞまれます。現時点では研究的検査として心臓カテーテル検査における冠血流予備能の測定や心負荷時の心筋から代謝される乳酸の測定、positron emission tomography (PET) を用いた検査などがあり、今後の展開が待たれます。

また、社会的に女性は適切な医療にアクセスできにくい状況がまだまだ見られます。男女の体の違いを知って医療において性差をふまえた診断や治療が普及してゆくことを願っています。

そのためにも看護職の皆様には、ぜひ認知しておいていただきたい。

より詳細を知りたい方は、以下のガイドラインもご参照ください

日本循環器学会 / 日本心血管インターベンション治療学会 / 日本心臓病学会合同ガイドライン 2023 年 JCS/CVIT/JCC ガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_hokimoto.pdf



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?