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おかげさまで今がある

気付くと看護師・助産師となって、もう20年になるからビックリだ。
エッセンシャルワーカーキャリアがサラリーウーマンキャリアを軽く超えていたりする。

自由なはたらき方をしているせいか、実感がわかないのだけれど、ね。

今でもナース1年目のことを良く思い出す。
新人時代に出会った心に残る患者さんたちだ。

私がナースとしてやっていく原点になったとも言える患者さんたちの顔は、今でも鮮明に思い出すことができる。

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大学病院の消化器内科・産科・婦人科の混合病棟に配属された私。
当時、助産師学校への進学を考え、配属は産婦人科病棟を希望していたので願ったり叶ったりと思ったけれど、振り分けられたのは内科チームだった。

看護師長さんに、産科チームか婦人科チームに移動させてもらえないかと直談判したけれど、「最初はどこでも同じよ」と願いは叶わなかった。

もともと訪問看護師志望だったこともあり、内科は嫌ではなかったし、看護技術を習得するにはまぁ良いかと思う部分が大きかった。

配属された内科チームは、消化器内科がメインではあるけれど、慢性期の病棟で、神経内科や血液内科、脳神経外科の急性期を脱した患者さんが多くいた。

パーキンソン病
脳梗塞術後リハビリ期
肝炎・膵炎・腸炎
血友病
生活習慣病
その他多数の疾患

ありとあらゆる疾患は、勉強することが多くて追いつかず、毎日が大変だった。そんな私の毎日を支えてくれたのは、紛れもなく患者さんたちだ。
採血にしろ、点滴にしろ、新人は下手くそなのに、「気にしないでいいわよ」と何人もの患者さんが腕を出してくれた。もう、感謝しかない。

中でも好きだったのが、寝たきりの方の部屋持ち(受け持ち担当)だ。
その部屋は長期入院の方が多く、看護のメインは生活の援助だ。

食事介助や身体拭き、歯磨き、入浴介助、排泄介助、車椅子移送にリハビリテーション。

それぞれ患者さんは、認知症や言語障害など、疾患の後遺症などで会話のままならない方がほとんど。
だけど私は、その部屋の患者さんたちが好きで、一方通行でも構わずとにかく話しかけていたし、私の聞いてもらっていた。



中でも忘れられないのは、脳梗塞術後のOさんだ。

Oさんは、転棟してきた時にはまだ食事がとれず、NGチューブ(鼻から入れる胃管チューブ)が入っていた。言語障害と嚥下困難があり、栄養はそのNGチューブから摂っていたのだが、嚥下訓練を少しづつはじめようとする頃だったと思う。


Oさんは、とにかくいつも不機嫌。
気に入らないことをされると表情に出るし、「うーん!!!」と声を出して怒ることもあった。

そんなOさんが、唯一笑顔を見せる時がある。
それは、NGチューブを自己抜管した時だ。

あー、またやったね、Oさん。

発見してそう言うと、きまってニヤリと笑うのだ。
そして、再挿入の時には、きまって不機嫌な顔に「うーん!!!」だ。

ケアをしても嫌そうな顔ばかりするOさんに、そうだよね、自分でできないんだもん、ままならないんだもん、そうなるよねと共感していたし、そんなOさんが気になっていたのだろう。なぜだか好きだった。


OさんのADL(日常生活動作)が日々、広がっていくことが自分のことのようにうれしかったし、その気持ちをOさんに伝え続けていたのだろう。病室から見えない天気のことだったり、ニュースだったり、とにかく話した。話し続けた。
もちろん患者さんはOさんだけではない。みなさんとの日々がとにかく好きだったのだ。

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そんなOさんや、みなさんとの日々が急に終わりを告げる。

2年目の春、私の願いが叶うこととなり、産科チームへ異動になったのだ。
せっかく内科の仕事にも慣れてきたところだったし、2年目になり、また新しく勉強かと思うと、少しだけ切なかったし、内科の患者さんたちとのお別れが悲しかったのだ。

けれども願っていた産科だ。うれしくない訳ではなかった。

新天地の「おだいじに」ではなく「おめでとう」は衝撃だった。
産科では命が誕生し、内科では命が終わっていく。
180度違う看護にとまどいつつも、生と死を改めて考えたものだった。

オトナのオムツ交換や下の世話が得意になっていた私も、新生児のオムツ交換にビックリ!
当たり前なんだけど、ラクチン過ぎるし、臭くない。
オムツ交換もオトナと新生児じゃぁ大違いだ。

そんな毎日で、少しずつ内科の患者さんを忘れつつあった、ある日のこと。

新生児室から扉を開けた時、ストレッチャー移送中のナースさんと患者さんがエレベーター待ちをしていた。
内科チームのナースさんだったので、挨拶をすると、ストレッチャーの患者さんが私の方に顔を向けた。

Oさんだ

「Oさん、ゆかりさんだよ~」内科のナースさんがそういうと、満面の笑みでOさんが私を見たのだ。

「Oさん!久しぶりだ。顔色いいね。私のこと覚えてくれていたの?今ここにいるんだよ」多分そんなようなことを言ったと思う。

Oさんは、ニコニコしてうなずいた。

胸がいっぱいになった。こみあげるものがあった。こんなに歯が見えるほどの笑顔を見たことがなかったし、私のことを覚えていてくれたのかと思うとたまらなかった。


Oさんのあの笑顔、多分一生忘れないだろう。

つらかったこと、かなしかったこと、新人の1年は色々なことがあったけど、そのすべてがOさんの笑顔で報われし、吹っ飛んだ。


私は私の看護でよいのだ。
これからも患者さんファーストで、寄り添い続けると思えたのがOさんの笑顔だったのだ。


その気持ちは20年近く経ったが、一ミリも変わっていない。

Oさん、本当にありがとう。今も変わらず大好きです。



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パラレルキャリアをもつフリーランス助産師です。歩くパワースポットと呼ばれるくらい幸運体質な私が、妊娠/出産/子育て/女性の健康/の情報発信と日々のくらしのよしなごとをエッセイでつづっています。サポートしていただけたら最高にうれしいです!