世界平和をもたらす最も簡単な方法:『サーチ・インサイド・ユアセルフ』
マインドフルネスと聴くと何を想像するでしょうか。
私が勤める会社では、ランチ後に5分間の瞑想を行います。
ピンと背筋を伸ばし、腹式呼吸を行います。
呼吸に意識を向け、他のことを考え出したら意識を呼吸に戻す。
5分が終わると、二人組になって感想を共有します。
初めは、この文化に慣れず、宗教なんちゃうか?と疑うこともありました。
でも何度かやっていくうちに、午後の仕事への向き合い方や一緒に働く仲間への態度が変わっていくことを感じることができました。
呼吸に意識を向けただけなのに、何が起こったのでしょうか...?
サーチ・インサイド・ユアセルフ〜仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法〜
[著] チャディー・メン・タン
英治出版 2016.07
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今回紹介する『Search Inside Yourself』は、Googleの社内研修をメソッド化した本です。その社内研修というのが、言わずもがなマインドフルネス。
マインドフルネスの起源は1979年に遡ります。
アメリカ人分子生物学者のジョン・カバット・ジンが、仏教瞑想をもとにストレス緩和法を編み出したことから始まりました。
マインドフルネスはすでに、有名テック企業を中心に取り入れられています。
でも、瞑想やマインドフルネスに馴染みがない人からすると、疑問が出てくるでしょう。
「瞑想って、お坊さんがやる修行なんちゃうん?」
「瞑想って、スピリチュアルなやつやろ?怖ない?」
「瞑想って、宗教?」
実は、瞑想とマインドフルネスは方法が似ていますが、目的が異なります。
瞑想は、心を無にすることを目的に行います。心を無にするとは、何も考えないことで脳を休ませることです(といっても私はピンときませんでした)。ただ、心を無にすることは、かなり難易度が高く、そのためお坊さんたちは出家して俗世から離れ修行を積んでいる訳なんですね。
一方、マインドフルネスは、日常で抱えるストレスを軽減し、効率的に仕事や人生を生きることを目的に行います。「今、この瞬間」の自分の気持ちや身体の状況をあるがままに受け入れるという脳トレをすることで可能になるのだそうです。
マインドフルネスは科学
実はGoogleでマインドフルネスを社内研修として仕組み化したのは、この本の著者チャディー・メン・タンです。
彼は根っからのエンジニアで、クラスで言うとメガネをかけた真面目君、理屈屋、分析屋。瞑想がスピリチュアルな儀式なだけなのであれば、彼の思考回路や経歴からして興味を持ちそうにはありません。
そんな著者は言います「マインドフルネスは科学だ」と。
実は、脳科学分野において、左の前頭前野が活発な人ほど、喜びや熱意、活力といったポジティブな情動が多く観察されるのだそうです。
そして、瞑想やマインドフルネスの特徴である「今この瞬間」の感覚や情動に集中するといった訓練をすることによって、左の前頭前野が活性化するということも証明されているのだそうです。
ということは、瞑想は科学的に証明された、幸せになるための方法なのです。
それ以外にも、瞑想によって、注意力や集中力がアップ、免疫力がアップ、皮膚病の治療速度がアップしたという研究もあります。
ここまで科学的に証明されている手段なのであれば、やらない理由がないですね。
巷にはすでに無料の瞑想アプリやマインドフルネスに関する書籍がたくさんあるので、ここではどのようにマインドフルネスを実践するのか、といった方法を紹介することはしません。
マインドフルネスを実践することで、自分、相手、そして、組織にどんな影響を及ぼすことになるのかを、まとめていきます。
自分の感覚と情動を認知する:自信と自己統制
「自分と向き合う」「自分を理解する」といった話を聞くと、難しく感じてしまう人が多いのではないでしょうか?
恐らくその理由は、実態がない「思想」や「価値観」を理解することこそが、自分を理解することだと思っているからだでしょう。
でも、そんなに難しく考えなくても良いのかも知れません。自分が今この瞬間に感じていることや、感情の動きを観察することが、自分自身を知る第一歩なのかも知れません。
自分を知る、つまり「自己認識の能力」には3つの領域があるといいます。
【自己認知の能力】
⒈ 情動の自覚:自分の情動とその影響に気づくこと
⒉ 正確な自己査定:自分の長所と限界を知ること
⒊ 自信:自分の価値と能力を強く実感すること
情動の自覚とは、自分の体で起こっている情動を正確に知覚し、その情動がなぜ起こったのか、自分の行動にどう影響するのかを理解することです。
正確な自己査定とは、生理的なレベルの感覚の理解を超えて、自分の長所や短所、自分の資質と限界、自分にとって大事なことなどを理解することです。
「自分を理解せよ」と言われて難しく感じてします理由は、多くの人が後者をイメージするからなのだと思います。
でも、実態があるものや感じることができるもの、触れることができるものを「観察しろ」と言われたら、話は別です。
つまり、鼻から吸う息の冷たさ、口から吐く息のぬるさ、冷たいフローリングに面した足の裏の温度、合掌している右の手の感覚、または左の手の感覚、鼓動の速さ、手の汗...。すでにある感覚、今のこの瞬間の状態を観察することが自分を理解することだと言われたら、そんなに難しいと思わなくなるはずです。
そして、正確な自己査定は情動の自覚の上に成り立っていると言います。
私たちは自分が緊張していると自覚する前に、すでに手に汗を掻いています。自分は焦っていると自覚する前に、すでに鼓動が高ぶっています。私たちの感覚や情動は、私たちの自覚より先をいくのです。
今の感覚や情動を理解することが、内面の状態を理解することにもつながります。
そして、自分の最も神聖な志も、最も邪な欲望も、長所も短所も、大事に持つべきもの、捨てるべきもの、自分自身を深く客観視し、そこで見えた自分の姿に正直であるほど、自信を持つことができると言います。
自己認識の能力は、この3つの領域を踏まえており、著者のメンはマインドフルネスこそ自己認識に他ならないと言います。
さまよう注意を自発的に繰り返し引き戻す能力は、分別や人格、意志の根源にほかならない。それなしでは、いかなる者も自分の主人とは言えない。
by ウィリアム・ジェイムズ
自分を理解することなしに、自分の主人と名乗ることはできません。
自己認識の能力が身に付くと、外部の刺激に対する自分の行動を選択することができるといいます。
それを自己統制力といいますが、自己統制の領域は5つあるのだそうです。
【自己統制】
⒈ 自制心:破壊的な情動や衝動を抑える
⒉ 信頼性:正直さと誠実さの基準を維持する
⒊ 良心性:自分の振る舞いに責任をとる
⒋ 適応性:変化に柔軟に対応する
⒌ 革新性:新奇な考えやアプローチや新しい情報を気兼ねなく受け入れる
自己認識と通じて、自信が持てるようになり、自分の行動を選択できるようになる...
それができたら、真に自由な人生、人生の主人としての人生を送れるのではないでしょうか?
相手の感覚と情動を認知する:共感
自己認識には、島皮質と呼ばれる脳の部位が大いに関係していて、活発な島皮質を持つ人ほど、自分の心臓の鼓動を感じやすいそうです。
同時に、島皮質が活発な人は、高い共感力を持つ傾向があるという科学的な証拠もあるそうです。
さらに、自分自信が直接苦しみを与えられていなくても、相手の生理的な状態を真似をしたり、相手の苦しんでいる姿を見るだけで、脳の中では、とても現実的な形でその苦しみを経験します。これが共感の正体です。
そして、自己認識の能力が高いほど、共感能力も高くなるのです!
まるで人間の脳は、人と生きることを前提に、設計されているようですね。
まず理解に努め、それから理解されることを目指せ。
by スティーブン・R・コーヴィ
共感は、必ずしも同意を意味しません。
ある考えを受け入れることなく、それについて考えられるのは、学識ある心のしるしだ。
by アリストテレス
あくまで、心理的な分析をするのではなく、優しさをもって、相手を知的なレベルでも直感のレベルでも理解し、理解した上で、同意できないのであれば、丁重に異議を唱えることができる。
共感は相手と同化することではなく、自分を理解し、相手を理解し、その違いを認めることなのだと思います。
共感をもって人に接すると、相手は自分が理解してもらえていると感じる可能性が高くなり、相手がそう感じると、安心し自分を理解してくれる人を信頼するでしょう。
共感は信頼の基盤であり、チームや組織において機能不全に陥る根本原因だと著者は述べています。
信頼が欠如すると、対立への恐れを抱き、正直で率直な対話ができなくなります。
率直な対話ができないと、当事者意識が薄れ、責任感をもつ必要性を感じなくなります。
責任感をもてないと、責務を回避しようとします。もちろん、結果や成果に対しても無関心となります。
そう、共感は信頼を築く土台なのです。
組織の情動の流れと関係性を認知する:政治的意識
どの組織にも、目には見えない結びつきと影響力が絡み合っています。これに気付かない人もいれば、力関係や微妙は関係性を理解して、効果的に意思決定者に影響を与える人もいます。
個人の気持ちや気持ち、欲求、懸念を理解するだけではなく、その気持ちや欲求、懸念が、他の人の気持ち、欲求、懸念とどう相互作用し、それがどう合わさって組織全体の情動的な構造を作り上げているかも理解することが、政治的意識だと著者は言います。
政治的意識では理解すべき変数が多すぎるほどありますが、政治的意識を持つための能力を鍛える方法は、自己認識を鍛え、共感を鍛える方法と基本的に同じです。
この本では、マインドフルネスと自己認識をほぼ同義と捉えています。
自己認識により、喜びや熱意、活力といったポジティブな情動が増える、つまり幸福度が増すということなのですが、それは、全ての人が自己認識を深め、共感力を高めると、世界中の幸福度が増し、世界平和が訪れるかも知れないということにもなるのです。
なんと、世界平和は自分を知ることから始まるのかも知れません。
そして、自分の内側に向けた視線と同じような優しい視線で、相手や組織を見ることで幸せが伝播していくのでは...と想像を膨らませてみます。
内側からの変化
自分の内面を知ることの重要性について、さまざまな本から気づき、学んできました。
今回紹介した本では、「自分を知ること」が自分の幸せに止まらず、世界平和につながる可能性があると学び、嬉しさと喜びがありました。
自分を知ることで、一体何になるんだ。はやく誰かに何かに影響を与える人になりたい。世界をまずは知るべきだ。
と、たくさんの意見があると思いますが、そんな価値観も認めます。
ただ、私はやはりまず自分を知ること、自分と向き合うことに妥協せず、誠実に取り組みたいなと改めて思います。
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