薬味のススメ

クマゼミの騒がしい鳴き声がおさまり、アブラゼミがジリジリジリと控えめに主張してきた。

お昼は何を食べようか。

そうだ、そうめんにしよう。

おかずなんてものはない。筆者の家ではこんな日が三日も続いている。
 おかずはない、と言いつつお湯を準備しながら、ベランダのプランターに生えているネギを数本みじん切りにする。そこらに転がっているしょうがも白い陶器のおろし器でする。しょうがの香りが料理をしている気分にさせてくれる。緑に黄色。この二つがあるだけで食卓が華やかに見えてきたではないか。
 
「いただきます」するするとそうめんが喉を通っていく。ふと、横を見ると5歳の娘の箸が進んでいないようだ。まだしょうがは食べないし、ネギもそこそこ。おつゆはいつもと同じで出汁と醤油を混ぜたもの。

「もうあきた。他のがいい」と娘が一言。
そんなこと言われたって、ご飯は炊いていないし、今から作る気にもならない。そうだシソがある、と細く切って出してみる。「えー」と言いつつも一口、また一口。止まらないようだ。その姿を見て、薬味様様。よかったよかったと安堵した。
 
薬味といえば他に、ワサビやダイコン、ニンニク、ミツバなどがあり、料理に深みを与え、味をより引き立たせてくれる。料理上手は薬味の使い方がうまいらしい。

そもそもなぜ『薬』味なのか。それは漢方にも使われるショウガを加薬味や、薬味と表し、そこから辛い物を薬味と呼んだ。
そして時を経て、料理に添えられる香味のある物を『薬味』と呼ばれるようになったという。その色や香りで食欲は増し、味に変化をつけてくれる。

筆者のお気に入りは、冷ややっこに添えられたショウガ。冷たい豆腐を食べながらショウガは体を温めてくれる。いやー、よくできている。まさに名の通りだ。

「ごちそうさまでした」

手を合わせ娘と声をそろえて言った。外でアブラゼミに交じってチーーーとニイニイゼミも鳴いている。

明日はミョウガを添えてみようか。いや柚子胡椒にしようか。またシソも買っておこう。

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