12 カーロス 月と空と船②
「面影を追い続ける男」 12 カーロス ー月と空と船②ー
青い空に薄色の月が浮かんでいた。見事な満月だ。
真昼に見える月は、嘘をつく。
明るい昼間の月を見る度、昔誰かが言った意味不明な言葉を思い出す。そして同時に、儚く悲し気な女の影がぼんやり浮かぶんだ。あの人はずっと待ち焦がれたままこの世から去った。
川の側に車を止めて、ずっとその白い月を見上げてみる。
川沿いには小さな小屋が一軒あるだけで、遥か彼方まで何もなかった。ただ静かな土手がずっと永遠に続いていくだけだった。
川をゆっくり流れて、船がやって来た。狭い川幅いっぱいの大きさの船は、俺の車の横でふいに止まった。中から古びた格好の男が出てきて、土手を登り、俺に近付いてきた。
「久しぶりだな」男が言った。
「こんなところにいたのか。ずっと捜していたのに」
勝手にすらっと言葉が出てきた。
「ずっと川で暮らしていた。あの船の中には何でもある」
ああ、こんな形で再会するなんて思いもしなかった。こんなに簡単に会う日が来るなんて。あんなに必死に捜したのに。
「前ばかり見るな。たまには振り返ってみるといい」
それだけ言うと男は向きを変え、また船の方に戻って行った。
「父さん!」
俺の呼ぶ声にもう振り向きもせず、男は船の中へ消えていった。
*
目が覚めた時、川には船の姿はなかった。
どこまでが事実で、どこからが夢だったのか。船は本当に通ったのか。
今は黒い夜の中に二つの月があるだけだ。透き通るような白い天の月。川に映る月の方は、微かに風で揺れ動いている。
蒸発した父の夢。
本当にどこかで船にでも乗っているのかもしれないな。
そう思ったら笑えてきた。あの人は、そういう勝手な人だった。
俺はいつも誰かの面影を追いかけている。
こどもの頃は父を、今はマリアを。俺の人生とは一体何のためにあるのか。
何故、他の男と去った女をずっと探し求めているのだろう。会って何を言うつもりなんだ? 今も愛していると?
だが、母のようにただ待ち続けて、朽ち果てるのは嫌だ。
> 次話 12 カーロス 月と空と船③
< 前話 12 カーロス 月と空と船①
いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。