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6 酒豪ランキング

『しろくまハイボール!』 6 酒豪ランキング



 今晩のしろくまBar「ヒヤシンス」はとある話題でにぎわっています。
 月刊誌「北極の友」によると、今月の酒豪ランキング(番付表)に変動がありました。

 3年横綱の地位を守り続けているセイウチさんはその座を譲らず、大関のジャコウウシ氏も変わらずでした。
 しかし、第3位にあたる関脇にいきなりの序二段からランク入りしたのが、一角《イッカク》さんでありました!

 何でも一角さん、夏限定の「ラピスラズリ」というカクテルが好き過ぎて、一晩に何杯飲んでも足りず、とうとうパフェを入れるでかいグラスで飲んでいるという情報が入ってきました。

 地球系な青いカクテルのトリコらしいです。それで急上昇したのですね。なるほど! あのドリルのような鼻先をつっこんでストロー代わりにチューチュー吸っていますものね。
 え?「鼻じゃないよ、牙なのに」って一角さん、言った?

 酒豪ランキングは、酒量とアルコール度数を何やらの計算式に当てはめているようですが、1位のセイウチさんは圧倒的に度数の高いお酒が得意なようです。
 今夜もロシアのズブロッカをロックで渋く呑んでます。そして、でっかいつららのような2本の牙をキランとさせています。

 毎晩来ているしろくま事務所のおじさんたちは、実はそんなにお酒が強いわけではなく、4しろくま集まってやっと18位くらいらしいです。

 意外なところでは、ラッコ君の9位でしょうか。
 いつもマイ貝の盃を持参して、そこに日本酒をちまちま注いでもらっているのですが、塵も積もれば山となるのですねぇ。
 ちなみに彼のおつまみはピスタチオです。いつも何かカチカチ割ってないと気が済まないらしいですね。

 え? 僕ですか? よくぞ聞いてくれました。
 僕は最近飲める年齢になった若輩者ですが、はじめて末席に名前を連ねております。はい、若葉マークがついてます! 
 ペンギン(スマホ)。自分の名前が載るって嬉しいものですね。

 おや、宮廷音楽家みたいなロン毛のジャコウウシ氏が、ハチマキをしてうなっています。
「北極の友」に毎号載っているクロスワードパズルに取り組んでいるようです。答えをハガキに書いて応募すると3名様に賞品が当たるのです。
 今月のお目当てはかき氷機ですから、そりゃあ人気あるでしょうね。

 どんな問題が出ているかですって? 何なに? のぞいてみましょう。
 「海の王者はだあれ?」 
 これは難問です! だってみんな「自分」って答えたいですからね。でも指定は3文字になってますよ。

 隣のラッコ君が「らっこ」とつぶやいています。確かに3文字ですが、えーと、きっと、違うでしょうね。
 一角さんは「いっかく」と書いて、小さい「っ」を消してみています。うーん、それも違うでしょう。

 ドカーンという音がして、Barの扉が外れました。
「ああ、またきっとトナカイさんだ。まったく学習しないなぁ」
 しろくまマスターが頭を抱えています。

 トナカイさんは3回に1度くらい、角《ツノ》を扉に引っかけて、騒動を起こすのです。
「イタタタ。またやっちゃった。よかった、ツノは無事だ」
 大事なツノを確かめてほっとしているようです。トナカイさんとせんとくんは気をつけましょう。

 まあ、トナカイさんだけじゃないんですけどね。ここの常連さんは、角だの牙だののお客さんが多く、Barにはあちこちに傷があるんです。

「この床の穴はセイウチさんが転んだ時のですよね」
「あっちのはジャコウウシ氏が振り向いた時の穴だよ。折角だから壁掛けにつかってるけど」
「トナカイさんは、天井にも穴開けたことがありましたー」

「ま、特にすごいのがこれだけどね」
 マスターが、ダーツの的をぺろりとめくると、そこには無数の穴が!
 一角さんがダーツの矢を投げようとするんだけれど、衝動を抑えきれずに自分の尖った鼻先を突っ込んでしまい、的を通り越して壁に鋭い穴をあけちゃうらしいんです。

「ま、気にしてないよ」
 気にしてないというわりには、穴の横にそれぞれの動物さんの顔シールが貼ってあって、誰の仕業か明確にしてありますね。あ、目が笑ってない。

 考えてみると、酒豪ランキング上位はみんな、穴あけランキングでもトップクラスばかり。酒豪、というより、酒乱?




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いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。