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18 ロンドン②

「面影を追い続ける男」 18 最終章 ロンドン ー再出発②ー


 エドが俺の肩に手を置いて言った。
「司、お前はマリアの葬式の前日に突然いなくなった。ショックで自分を支えきれなくなって消えたのだろうと推測したが、どこに行ったのか見当がつかなかった」
「すまなかった」
 色々な片付けを全て引き受けてくれたであろう友の目を見た。

「電話してきたお前の言動から、彼女が死んだことを認められない状態だとわかった」
「本当にここにいるのはマリアなのか?」
「一緒に事故現場に行ったじゃないか。真っ青になった彼女の顔を忘れたのか? 体に染み込んだ水が砂浜に流れ出たあの光景を! 新聞にだってあんなにデカデカと載ったじゃないか!」

「あれは、本当にマリアだったのか? まるで別人のように、青ざめて」「歯形が一致したんだ。後から発見された鞄から、たくさんの写真も出てきた。マリアは死んだ。ここで眠っているんだ」

 旅の間、どれだけ泣けたら楽になれるかと思っていた。自分の頬を涙が伝っていくのがわかった。止めたくても止まらない程、次から次に湧き出してくる。

 俺も泣きたかったんだ、ずっと。睦月のように。

 立ち上がれない間、ずっとエドは俺の横に立ち尽くし、彼もまた唇を噛みしめていた。それは長い時間だった。幸い、長くなった髪が俺の顔を隠した。

 もうここに来ることは二度とないだろう。

 外壁を右手で這わせながら、教会の周りを一周した。マリアを抱いた時のように。さよならを告げる。

 屋根のすぐ下に、たくさんの天使が描かれている。目を閉じてハープを奏でている者、その音楽に酔っている者。たくさんの天使が安らかな顔で存在していた。

<すべての天使に物語がある>と、昔ここの神父が語った。
 すべての天使に。マリアにも、睦月にも、それぞれに。

「わかっていたんだ。ここに一人では来られなかった。感謝している」
「早く元のお前に戻ってほしい」
「エド、君だって昨日のままじゃいられない」





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⇒ 「面影を追い続ける男」 目次

いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。