2 ソールズベリー② 悪夢
「面影を追い続ける男」 2 ソールズベリー② -悪夢-
空は青く雲一つなく澄み渡り、嫌味なくらいに俺と不釣合いだ。
俺はふと、ストーンヘンジに行ってみようと思い立った。
ここから僅か二十分の距離だ。何故か彼女が行きたがらず、俺は特に行く理由を見つけられずに、近くにいながら一度も行ったことがない場所だった。
多くの謎を抱える不可思議な伝説の石が並ぶ平原。
そこは、太陽を崇拝する神殿だったとも、日食や月食を予測する天文台だったとも推測されている。
未だにはっきりした答えの見つからない遺跡。
遠くから見ると、緑の苔状にびっしり生えた草原の上に、怒り岩がそびえている。
大きな円周上に高さ六メートル程の石柱が並び、それは二つずつ天井石によって繋がれ、アーチのようになっている。
その更に内側にも小さな立石たちが、もう一つの環を形作っている。そして中央には外側の石より大きな石柱が平たい石を囲む。
ロープで進入を制限された周りを観光客がカメラ片手にうろつく姿は、未開の土地に降り立ったはいいが、何の手段も持たない無能な開拓者のようだった。
俺は中央の祭壇石から目をそらさずに歩いて行く。
突如として頭が回り始め、眩暈がして立っていられなくなった。
俺は倒れながら、意識が渦を巻くのを感じていた。ここには、あまりに多くのサークルが存在し過ぎるのだ。
目を閉じると、松明を持って石を囲む人々の姿が見えた。
火は次第に大きくなり、円を形成した列は夏の夜の祭りのように、もうどこが始まりでどこが終わりかわからない。
永久運動の法則のように回り続ける不気味な行列。
炎が俺を包む。恐ろしいほどにリアルな感触が肌を覆う。
俺には関係ない! 石の意味なんて俺にはどうだっていいんだ!
そう叫ぶと、やっと炎の熱さと共にその光景が遠ざかって行った。
*
俺は倒れもせず、地面にしっかり立って空を見上げていた。俺のことを不審がって囲む人もいない。表面上は普通に歩いていたらしい。
実はこういうことは初めてではない。だから戻って来られることが頭ではわかってはいる。心の奥底に何かひっかかっているが、何故この現象が起きるかはわからない。
これが彼女が来たくなかった理由だったのではないだろうか。
そう。ただ行きたくないのではなく、二度と行きたくないということだったのかもしれない。そう考えると全ての彼女の言葉の響きの意味が変わって来る。
誰かに見られている気がして振り向くが、人影はなかった。
彼女はここには来ていないはずだ。
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いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。