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12 カーロス 月と空と船③

「面影を追い続ける男」 12 カーロス ー月と空と船③ー


 物音一つない車の中で、また孤独を選んでしまった自分を思い返していた。寂しいくせに誰かに縋れない。

 睦月といた時はいつも音に囲まれ、彼女の声を聴き、皮膚を透明なベールが包んでいるようなやさしさを感じた。
 彼女と別れてからまた丸一日何も音がしていない。心地良かったはずの静寂が今は苦しい。
 
 ダッシュボードに手を突っ込むと、彼女が忘れていった音源が残されていた。
 繋げてみると、東洋的な優雅な音楽が流れてきた。映画音楽だろうか。果てしなく広がる広大な砂漠の砂の音のようだ。
 続いてオルゴールのねじを巻く音が絶えず入っている軽快な曲が流れた。

 その歌の後、ザラザラとした雑音に変わり、睦月の声が聴こえて来た。

「今、カールトン・ヒルであなたを待っています。
 昨晩嫌な夢を見ました。司が私に別れを告げる夢。あなたがここに来たら、現実になりそうで不安です。

 会ったばかりなのになんて思わないで。時間は関係ない。
 思い出してほしい、あなたが言ったこと。私たちは特別な経緯を抱えた人間だって。

 私はあなたといると、自分に起きた出来事がどこか別の世界に起きたことのように感じます。自惚れじゃなければ、司もそうじゃないかと思います。

 あなたは探したくないものを探しているような顔をしている。
 私が横にいることで少しでも救いになるなら、一緒にいたい。途中で探し物が見つかったら、私は一人になっても構わない。

 たとえいつかあなたといることが辛いことに変化しても、後悔なんてしない。
 あなたの存在は、過去を覆うように包んでくれた。私もあなたにとってそんな存在になりたい。

 あなたを目の前にすると、言葉を失いそうだからこうして残すことにします。
 私はスカイ島のフェリー乗り場にいます。三日待ってあなたが来なかったら出発します」


 彼女の声の後、まるで空を飛んでいるかのような曲がはじまった。

 雲が俺の横をどんどん流れて、真っすぐに行き先が見える。




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⇒ 「面影を追い続ける男」 目次

いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。