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12:16才、初めて付き合った人と「初恋」/村下孝蔵

高校1年生の時に人生最初の恋人ができた。
相手は同じ学校の3年生。

二人とも真剣に人を好きになるのは初めてのことで、片や既に男の味を覚えた女狐、もう一方は傍若無人な女狐をのほほんと見守る羊飼いだった。
羊飼いは羊を飼うように優しく女狐に声をかけ、安全な食事と寝床を与えた。

記憶力だけは良いので先輩の時間割を覚えてしまい、授業の前後に、彼がいそうな場所に行き、居ないかどうかを探したり、私が窓際の席の時に体育をしていた時期は、寝た振りをして、校庭でお世辞にも運動神経が良いとは言えぬ姿を観察していた。

バイク通学禁止の片田舎、必死に自転車を漕いで、放課後や休日に本屋巡りやゲーセンなんぞに行ったものだった。

乗り物が自転車だけのデートというのは雨が大敵であり、更に制服まま打たれる雨というのは、スカートやスラックスから水滴が落ちて、靴下に雨が染み込み大変難儀である。
夏の雷雨が大敵だった。
そんな日々は夏服の時期を過ぎ、冬服に衣替えした晩秋でも続いていた。

先輩は受験をどうするつもりなんだろうな…?とは思った。
私は入学の初っぱなから遊びたくっていたのだが、彼は成績が良くて、遅刻も欠席もないし、推薦入試にほんの少し手が届かない、くらいだったからだ。
私の一緒にいたいワガママに付き合わせて大丈夫?と疑問と罪悪感を覚えつつ、私は一緒にいたいという欲に抗えなかった。
生粋の羊飼いも、小屋から草原に出たがる女狐を放つために、自習室から出て自転車に乗るのをやめなかった。
彼も彼で、抗えなかったのだと思う。

晩秋の放課後、霧雨が降る中今日は軽く駅前を探索しようとなった。
霧雨といえどもブレザーもスカートもじんわりは濡れるし、冷えるしで、駅前の裏道を寒い寒い、と言いながら二人で並んで歩いていたら、後ろからいきなり肩を回されて

「これでちょっとはあったかいでしょ?」

服越しに体温が伝わり、肌越しよりずいぶんと柔らかく優しい暖かさだな、と感じた。
それに、好きな人の体温を知るというのは、本能か何なのか、ずいぶんと照れるし、好きだという気持ちを増やすのだな、と、人肌を知って数年経つのに、初めて
「落ち着き」
を感じた。

これが体温の心地良さを知った最初の記憶。
あの瞬間だけは忘れがたいし、今も忘れてないから苦しいのだけど。


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