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6:九郎とのおしまいと「ロコローション」/ORANGE RANGE

私の精神は混乱をきたした。
彼のメールが
「私を本気で狩りにきている」
のが肌感でわかったからだ。

どこがどう変化したか?と言われても困る。
内容自体に変化はない、ただそこには、より感情的、直情的なフレーズが散りばめられるようになっただけだ。
「はやく会いたい」
「お前みたいな女と出会ったのは初めてだ」
という、まあありきたりな文句ではあるものの、気障で甘い緩急のある球から、ひたすらに直球勝負になられても、こちらも防戦に必死だ。
言葉で喉元にナイフを突きつけられ、いつどうなってもおかしくなかった。

どうなっても、というのは、関係性が変化をするとか、終えたくない勝負…ダンスにも似たもので。
もうルールも何もない、ただお互いに惚れたはれたはとうに過ぎて
「互いが互いのものになるか?」
という状態。
私は恐怖を感じながらもやめられなかった。やめたくなかった。

夏の終わり、もう感情の嵐に負けて、私は最後の一勝負に出た。

「何でそんなに私に対して強い気持ちをぶつけるわけ?」

返ってきた言葉はこんなだ

「俺の心の暗幕の中に入ってきたから」

私は比喩表現は苦手だが、彼は本心を語る時には、比喩しか用いない。

しばらく考えた。

踏み込みすぎた、というのは理解した。

そしてそれは彼が私に、普段見せない場所を見せている、という意味なのも。
だが、そこに、私を本当に

「捕まえて手に入れたい」

という意志があるかどうかは、確認しないとわからないことだ。
しかし、これで返事がイエスなら、私は彼の手中に収まるしかなくなる。
身を削った

「本気の遊び」

の本気をかわすことに、私は限界だった。
あちらも本気で狩るのに、限界がきたから本音を出した。
返事をするのは私で、それによって

「決着がつく」

さあ、私はどうすればいい?

携帯電話の画面を長々と眺めてから

「あなたって、私ごときの女を心の中に入れてしまうの?ずいぶんとお軽い色恋しかしてこなかったわけか、はははっ」

返信はこうだった。

「俺の暗幕を開いておいてからその言い種か!わかった、お前とのことなんてもう終わりだ。だから電話もメールも送ってこないでくれない?もうウザいから」

なるほど、私は想いを踏みにじったのか。
カマをかけたら、私の想いの激しさが憎悪に変わったらしい。
プライドの高い彼らしい。

この激しさこそが、私を削る要因だったが、削られ呼吸が苦しくなっても、いや、なるからこそ、やめられなかった。

勝者も敗者も決まらないまま、試合終了のホイッスルは鳴った。
濃密過ぎる4ヶ月で、私は傷つき擦りきれ、ずいぶんの間心はぼんやりとして、ヒリヒリと傷んだ。

初夏から秋口にかけてのできごとだ。

当時、リアルタイムでも、なんて馬鹿なことをしているんだろう、と自分にあきれたが、ORANGE RANGEが売れっ子で、彼らは「ロコローション」でこう叫んでいた。

「刺激が欲しけりゃバカニナレ!」
そうだよな、と妙な納得を己にさせていた。

今思えば、私と九郎は、激しい
「真夏に始まるセレナーデ」
を奏でていた。

さて、わたしは
「刺激たっぷりの穴にエスコート」
できたかなあ?


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