物書きのライバルが「人間」とは限らない(生成AIの現状と各小説投稿サイトの対応状況)
この所、急速に進化している自動生成AI…。
これが小説の分野に及べば、自分の頭脳で懸命に小説を執筆している物書きにとって、とんでもない脅威になります。
そんな「脅威」に対し、小説投稿サイトはそれぞれどんな対応をしているのか…個人的にざっと調べてみました。
(今回調べたのは、個人的にもよく利用しているアルファポリスさん、エブリスタさん、カクヨムさん、小説家になろうさん、野いちごさん、ノベマ!さん、pixiv(※)さん、ベリーズカフェさん(あいうえお順)です。)
■生成AI対策にイチ早く取り組んでいるのは「pixiv」
結論から言うと、現状「AIへの対策」をハッキリ行っているのはpixivさんだけです。
調査方法として、各小説投稿サイトの「利用規約」「ガイドライン」「ポリシー」等に「AI」という文言が含まれているかどうかを「検索」してみたのですが…
「人工知能」としての「AI」が含まれているもの(※)は、pixivさん以外にありませんでした。
さらに言うと、pixivさんは作品投稿時に「AI生成作品か否か」を問う「質問」を、2023年6月末時点で既に取り入れています。
(ラジオボタンで「はい」か「いいえ」か選ぶ方式です。2023年6月末以前に投稿された作品にもこの質問は登場しており、選択しないと表紙絵がちゃんと表示されなくなることも…。)
pixivさんが生成AI対策にイチ早く取り組めた背景には、そこが元々「投稿イラスト」に特化したサイトだから…ということがあると思います。
イラストコンテンツは、生成AI問題の「最前線」。
それゆえに、pixivさんでは「AI生成コンテンツとは何か?」という定義まで含めて、きっちりユーザーに対策を示しています。
そしてそんな「お絵描きAI問題」への対応と足並みをそろえる形で、小説の方の対策も進んでいるのでしょう。
それに比べて「小説だけ」の投稿サイトは、まだ「対岸の火事」というか…危機感が薄い印象を受けます。
■生成AI問題は「対岸の火事」ではない
物書きさんたちの中には「AIが脅威になるなんて、まだまだ先のこと」と思っている方が数多くいらっしゃるかも知れませんが…
実は生成AIの脅威は、既に小説の分野にも及んでいるのです。
日本では、公立はこだて未来大学に「星新一さんの小説を解析した人工知能に、おもしろいショートショートを作成させる」というプロジェクトがあり、サイトには実際の作品も掲載されています。
研究成果としてSSを作成するだけでなく、実際にその作品を第3回星新一賞にも応募したそうです。
(もっとも、この時はまだAIが全て執筆したわけではなく、一部人が手を加えたそうですが。)
ちなみに星新一賞は国内で唯一、応募規定で「人間以外(人工知能等)の応募作品も受け付けます」と明記している文学賞で、2022年の2月には初めて「AIと共同で執筆した小説」が入選を果たしています。
上の例は、ちゃんと「AIでも可」と認められている賞への応募ですので、問題は無いと思われますが…
国外にも目を向けると、今年、アメリカのファンタジー・SF小説誌「Clarkesworld Magazine」がAI作品の応募多数を理由に、オンライン投稿の受付を一時停止するという「問題」が発生しています。
公式X(旧Twitter)に、投稿禁止処理をした件数のグラフが載っていますが…
近年急激に件数が増えていることが分かりますよね。
生成AIがこれほど発達する前は、単純に「盗作」などの違反行為を処理していれば良かったのに、今はこれほどの数をBANしなければならなくなったのです。
AIの脅威は「人間と同等・あるいはそれ以上の小説が書けてしまう」ことだけではありません。
それよりも厄介なのが「短時間で大量生成が可能である」ということなのです。
小説投稿サイトはただでさえ作品の「露出機会」が少なく、優れた作品も戦略と運次第ではカンタンに埋もれてしまう「戦略優位」な世界です。
そんな世界に、AIによる作品が大量投下されたら、どんなことになると思いますか?
「人間」の物書きはさらに露出機会を奪われ、名作が日の目を見られない可能性が増えます。
実際、上に書いたアメリカの小説誌の例も、AI作品はAI作品だとバレています。
にも関わらず投稿受付が停止したのは、投稿数があまりに膨大になり、処理がしきれなくなってしまったためです。
これは日本の小説投稿サイトでも容易に起こり得る問題です。
生成AI問題は、決して「対岸の火事」ではなく、既に足元にまで迫って来ている火事なのです。
■疑わしい作品なら、日本の投稿サイトでも既に…
実のところ、日本の小説投稿サイトでも、自分は既に怪しげなアカウント(AI生成が疑われるアカウント)を、少なくとも2~3は見かけています。
検証するにも難しいことですので、確証があるわけではないのですが(なので「通報」などもしていません。実際こういうの、どうしたら良いんでしょうね?)…
1つは「1人の人間が投稿したにしては、投稿数が異常(4ケタ)」でした。
文字数の少ない短編を長期間かけて1つずつ投稿した…あるいは「短歌」や「俳句」を1ページにつき1首UPして4ケタというならまだ分かるのですが…
そのアカウントは「小説」をその数UPしていて、しかも投稿間隔も異常に短かったのです。
もう1つは「人間が書いたにしては、日本語がおかしい」ものでした。
タイトルからして「意味が通らない文章」で「ヘンだな…」とは思ったのですが…
中身に至っては「内容がおかしい」どころではなく「小説なのになぜか箇条書き(文の先頭に「1.」「2.」などの数字が振ってある)」など「小説としての形」からして破綻していました。
最後の1つは文章的には一応「意味が通って」いて、AI生成かどうか判断にかなり迷うものだったのですが…
「意味は通っていても、内容が何かおかしい(人物造型や台詞が妙にちぐはぐ)」ものだったのです。
上の例のような「明らかな違和感」があれば、分かりやすいのですが…
AIが進化すれば、見分けのつかない小説が現れる可能性もありますよね。
AIが人間の知能を凌駕する「シンギュラリティ(技術的特異点)」は、当初2045年と言われていましたが、最近だと2025年とも2024年とも言われ、どんどん予測が早まってきています。
もう、猶予はさほど残されていないかも知れないのです。
■現状の利用規約やガイドラインで生成AI対策は可能か?
上でも書いた通り、現状、生成AIに対して「はっきり」対策を取っているのはpixivさんだけです。
では、他のサイトは生成AIに全く対応できないのでしょうか?
実は現行のガイドラインでも「何とかなりそう」なサイトはあります。
具体的には野いちごさん、ノベマ!さん、ベリーズカフェさんのスターツ出版系3サイトです。
これらのサイトはガイドラインの「作品」の定義に「ユーザー自身が執筆(制作)・投稿していること」「ユーザー自身が著作権者であること」を挙げているのです。
こういった「ユーザー自身の書いた作品でないと投稿してはダメ」という文言…
「当たり前」過ぎるせいか、スルーしているサイトも多いのですが…こういうことをキッチリ書いておくのって「大事」なんですよね。
こういう「基本中の基本」「物事の大前提」は、時代が変わっても「応用が効く」のです。
実際「ユーザー自身が執筆したもの」というのが前提なら、「AIの作った作品」は弾くことができると思いませんか?
(「部分的にAIを使った作品」はどうなるのか…という問題はあるかと思いますが、少なくとも完全AI自動生成の作品は弾くことができるでしょう。)
この3つのサイト以外でも、対策が取れなくはありません…が、ちょっと難易度は高いです。
たとえば、どのサイトにも必ず「他者の著作権を侵害しない」という禁止事項があります。
生成AIというものは「他者の作品を学習し、それらを元に作品を作り出す」ものです。
そこで「他者の著作権を侵害している」という主張ができなくもない…のですが、ちょっといろいろキビしいかも知れません…。
他には「最終手段」として「運営権限でのBAN」があります。
(大概の利用規約やガイドラインには、運営の削除権限やユーザーの利用停止に関する項目がちゃんとあります。その現行ルールでAI生成作品に対応できる(する)かどうかは、運営さんの判断次第になるでしょうが…。)
小説投稿サイトの「存在意義」は、「新たな書き手の育成・発掘」。
特に出版社の運営しているサイトは「書籍化できる作品(著者)」を求めているものです。
ですので、出版自体が難しい(著作権的な問題がハッキリしていない&炎上しやすい)「AI生成作品」が人間の書き手を圧迫する事態を、運営さんも望んではいないと思うのですが…
実際に各運営さんがAI作品に対してどう対処するのか、どういう姿勢で臨むのかは、事が起きてみなければ分かりません。
一番望ましいのは、先手を打ってハッキリ生成AIへの「姿勢」を示しておいてくれることなんですけどね…。
■おまけ(ブックマーク集)
AI関連のニュース記事を、ちょこちょこ「はてなブックマーク」で収集しています。
上に書いた「星新一の小説を解析してSSを作成するプロジェクト」のサイトや、アメリカの小説誌の応募停止のニュースなども、ここに放り込んであります(ブクマ数が多いので、探すのが少し大変かも知れませんが…)。
「タグで絞り込む」である程度は件数を減らせるので、興味のある方はご覧になってみてください↓。
ちなみに、AIと著作権の問題がどうなるのか…は、AI&政府関連のブクマ集を読むと分かりやすいかも知れません(まだ討議の段階のようですが)↓。
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