歴史は深掘りすればするほど、おもしろい
以前の記事で「過去の歴史に実在したプリンセスについて知るために」そして「世界史の知識を深めるために」歴史小説を書いている、と書きましたが…↓
そうして実際に「歴史小説のための資料調べ」をしているうちに、気づいたことがあります。
それは「歴史知識が深まれば深まるほど、より歴史や世界情勢が面白くなる」ということです。
知識が無いうちには何となく読み流してしまっていた部分にも「あぁ、これはこういうことだったのか」と、新たな気づきが生まれ、様々なことがより深く楽しめるようになります。
また、小説の資料リサーチには、「このくらいの知識があれば、1作書くには充分だ」というラインがあったりするのですが…
そのラインを超えて、さらに知識を深く掘り下げていくと、より小説に「深み」を持たせることができます。
たとえば、イングランド史上初の女王 レディ・ジェーン・グレイ を題材にした短編小説『在位九日の少女王の恋』を書いた時のことなのですが…
彼女(ジェーン・グレイ)の愛読書がプラトンの『パイドン(ファイドン)』で、13歳にして原語であるギリシャ(ギリシア)語で読みこなしていた(ジェーン・グレイはイングランドの王族なので、母国語は当然、英語です)…ということは、他の方の書かれた物語や、他の様々な資料にも載っていました。
ですが、その『パイドン』がどんな内容なのかということには、不思議なほど、全く触れられていませんでした。
(13の少女が、ギリシャ哲学者の著書を原語で愛読していたという事実だけで既に「とんでもない」ことなので、そこで話が終わってしまっても仕方がないとは思うのですが…。)
なので、気になってそれがどんな本なのかを調べたのですが…
その内容を知った時、全身に鳥肌が立つような衝撃を味わいました。
…というのも、その本が、プラトンの師である哲人ソクラテスの「罪無き死刑(←一部の人間の「気に障る」ような言論活動をしていたため、死に追い込まれた)の直前の、最期の対話(そして毒ニンジンの杯で臨終を迎えるまでの様子)」…しかも「『死』についての議論」を描いたものだったからです。
読者となったプリンセスと、その本の内容との、不思議な、そしてあまりにも皮肉な「運命の符合」に、慄然としました。
なぜならジェーン・グレイは、大人たちの思惑に翻弄され、己の意思とは関係なく王位に就かされた挙句、たった9日で王座を追われ、罪無くして断頭台の露と消えた少女だからです。
そんな悲劇の運命をたどった少女の愛読書が、同じく「権力者たちの思惑に振り回され、死刑に追い込まれた哲人」の最期を描いたものだったとは…。
ジェーン・グレイが処刑されたのは、たった16歳と4カ月の時でした。
しかし、資料の中の彼女は、その若さにも関わらず、死刑を宣告された後も毅然と振る舞っていたような印象を受けます。
それが不思議だったのですが…『パイドン』の内容を知り、納得できました。
彼女にはソクラテスという「人生のロールモデル(お手本)」が存在しており、おそらくは彼の最期を見習い、なぞることで、自分を保っていたのであろうと…。
(しかし、理想の最期を思い描けていたとしても、最後の最後には16歳の少女らしい戸惑いが出て、取り乱したりもしているので、そこに一層、哀れさが募ります。)
自分は小説にする際、ジェーン・グレイに「ギリシャ・フリーク」という設定を入れたのですが…
それは、この愛読書の存在と、彼女が妹に遺した形見が「ギリシャ語の聖書」だったことに由来しています。
当時、本と言えば、ヨーロッパ知識層の共通言語であるラテン語がメインで、やっとちょこちょこ各国の言語のものが出てきたくらいだと思うのですが(←たぶん)…にも関わらず、ラテン語でも母国語でもない「ギリシャ語」の聖書をわざわざ遺しているあたり、ギリシャへの思い入れが感じられると思いませんか?
現代人の我々が、中世ヨーロッパやロココなフランスに憧れを抱いたりするように、16世紀の英国人が古代ギリシャに憧れを抱いていたとしても、何の不思議もないのではないかと思っています。
(実際、古代ギリシャやローマの文化は、ルネサンスに多大な影響を与えていますし。)
ついでに、その「ギリシャ好き」設定、小説の中でジェーン・グレイが夫 ギルフォード・ダドリー と親しくなっていった「きっかけ」のひとつとしても利用しています。
ちなみにギルフォードが芸術好きのインドア派という設定も、資料から取り入れたものです。
(その他にも、様々な設定を資料からのプロファイリングで決めているのですが、その設定の「全て」を小説に描けているというわけでもありません。←「10~15分で読める(のが目標)」という小説のボリュームの関係や、要素の取捨選択の関係もあって…。)
(↑「恋愛群像ヒストリカ」シリーズは、エブリスタ版とSSブログ版で視点を変えています。『在位九日の少女王の恋』の場合、エブリスタ版(上)が妻ジェーン・グレイ視点、SSブログ版(下)が夫ギルフォード・ダドリー視点になっています。)
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