愛情

 私は同性愛者ではなかった。とは言うものの、男の子を好きになったこともなかったし、興味を持つこともほとんどなかった。
 仲のいい男友達に好意を抱いていたことはあるし、その時の好意は同性の友達に対するのとは少し違ったものだったのを覚えている。
 中学の時、図書委員で同じになって、それから三年間ずっと仲良くしていたし、彼から告白してきたから、高校に入るまではずっと付き合っていた。
 彼と話すのは楽しかった。気が合うけれど、感性が同じ、というわけではなかった。むしろ、共通点よりも相違点の方が多かった。食べ物の好みも、運動に対する認識も、ファッションも、全部意見が合わなかった。でも本の好みは近かったし、人として守るべき態度、のような観念も、ほとんど重なっていた。一緒にいて、安心できた。彼は私の嫌がることは一度もしなかったし、私も彼の機嫌を損ねたことが一度もなかった。彼のことは、友達として、ずっと好きだった。でもそれは、彼が女性であったとしても同じことであったと思う。

 なぜこんな話をするかというと、最近、同性の友達から告白されたからだ。すごく顔を真っ赤にして、必死の形相で「諦めるつもりだったけど、どうしても気持ちが抑えられなくて」と。冗談の訳なんてありえないし、私自身、その子のことは、友達として好きだった。表情や仕草がいちいちかわいらしくて、いつも見守ってあげたくなるような、明るい女の子だった。
 背は私よりも高くて、色々と起伏のない私の体と違って、女の子らしい女の子だった。羨ましいと思ったことはなかったけど、魅力的だな、と思うことはあった。女性と言えども、あまり女性的な体ではない私からすると、彼女の柔らかく流線的な肉体には芸術的な美しさを感じる。眺めているだけで、気持ちがいい。なめらかに、快活に、思いのままに、彼女が自分の体を動かしているのを眺めているだけで、楽しかった。

「いいよ」
 私は、ほとんど何も考えず、その告白を受け入れた。断ったら彼女が悲しむとか、彼女に対して恋愛感情を抱いているかどうかとか、そんなことは少しも考えなかった。中学の時に付き合っていた彼の時は、もっと悩んだ結果付き合うことにしたけれど、今回は何の躊躇もなく受け入れた。
 彼女はこちらが心配になるほど喜んだ。飛び跳ねて、ぐるぐる回って、自分の頬をつねって、遠慮がちに私の服を引っ張って、私が肯くと、私の左腕に体をくっつけた。目が合うために、くしゃっとしたかわいらしい笑顔を見せて、喉の奥から出ていると思われる変な鳴き声をあげて。私に頭をこすりつけてきた。
 言葉はいらない。ただ彼女の愛情が、熱を通して伝わってくる幸福が、心地よかった。

 柔らかい体。安心しきっていて、無邪気で、一点の曇りもない純粋無垢な愛情。一緒に生きていきたいという強い意志。彼女の愛情に触れると、私は、それだけで、自分の心が満たされていくのを感じた。


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