最後のメッセージ【ショートショート】

 我が星に届いた初めての星外知的生物からの通信は、想像よりも速やかに、簡単に、翻訳された。

――聞こえていますか 聞こえていますか 私の声が 聞こえていますか

――きっとあなた方がこの声を聞くとき 私という個体も 種も もう滅びていることでしょう

 その声の発信源は、六万光年ほど離れた、この星に近い環境にある惑星からだと推定された。電磁波に乗って届いたその声の主は、何よりもまず、彼自身のことを語った。

――私はこの種の 生き残りのうちのひとりです 私たちはかつてこの星で最高の繁栄を謳歌した種でした でもそれももう 終わりを迎えつつあります 私たちの太陽が弱くなり この星は私たちにとって生きにくいものとなりました
 そして この星の外に望みを託して冷たい眠りの中で永遠の旅路を選んだ同胞を見送った後 私はできるだけ広く 遠くに このメッセージを残すことにしました
 反対する者がいないほどに もう 皆は穏やかな眠りの中にあります

――心配しないでください 私は決して不幸ではありませんでした
 生まれた時から 私たちは滅びるべき定めなのだと分かっていましたから
 親からもそう教えられてきました
 最後の仕事をちゃんとこなそうと 私たちの種は 懸命に生き抜きました
 同情しないでください 私たちは決して 醜く愚かな種ではありませんでした
 最後まで誇り高く 私たちらしく 平和と愛の中で その歴史の幕を下ろしました
 だからその最後に 私たちの運命を より多くの 知性ある者たちに届けたかったのです
 私たちは最後まで 生あるものとして 限りあるものとして 美しく生き抜きました
 最後には滅びゆくとしても 私たち生物は 決して無意味などではありません
 この宇宙は美しい たとえ私たちの種が滅びても この星が滅びても この宇宙は滅びない
 それが私たちの最後の希望でした
 どうか これを聞くことのできる 私たちのまだ知らない知性的な生物のみなさんへ
 どうか 私たちの愛した世界への愛を 忘れないでください

――さようなら さようなら 愛しい家族 愛しい友 愛しい繁栄 愛しい歴史 愛しい宇宙
 私たちは旅立ちます 星の粒子となって 母なる私たちの太陽と共に 永遠の眠りにつきます
 さようなら さようなら


 その言葉が、われらの星の百年続いた戦争を一夜にして終わらせたことを、彼らが知ったらどう思っただろうか。だが、もうその可能性は残されていないし、必要だってないのだ。
 生物として美しく生きよう。終わりの日まで。彼らのように。

 彼ら人類のように、終わりの日まで、美しく生きよう。

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