感想 夏物語 川上 未映子 モチーフは、「非配偶者間人工授精(AID)」だが、読んでいるうちに日本が少子化になった理由が見えてきた。
二部構成になっています。
第一章は、2008年夏になります。
前半部分は「乳と卵」という著者の過去の作品と少し似ている気がした。
豊胸手術をしたいという姉。
思春期になりかけの姉の娘。
二人は仲が悪い。口も聞かない。
どうして姉は豊胸手術をしたいのか?
それを考察する部分が面白かった。
姉は不幸な人だからこそ、幸せになりたいという気持ちが強かった。
それが豊胸手術に繋がるのだ。
緑子と姉が卵をぶつけ合うシーンも興味深い。
緑子は手術をするのは自分なんかを産んだせいだと思っている。
この卵のぶつけ合いの激しさの中に、緑子の心の葛藤が見て取れる。
どうして、私なんか産んだのという叫び。
後悔してるなら産むなよという叫びが聞こえてきた。
このシーンは鳥肌が立った
母親のこの娘に対する回答は素晴らしい。
物事には何か理由があると人は思い込んでいるが、その理由がないこともあるのである。
二人の親子のちょっとした誤解が、この瞬間、解決したように感じた。
思春期の娘の繊細さがよく表現されていて良かった。
第二章、2016年夏から2019年夏
こちらが本書のモチーフになる「非配偶者間人工授精(AID)」が描かれる作品になる。
この物語には、子育てに男の姿が見えない。
過酷な子育ての実情や、義母との確執、いかに、この社会が子育てに適してないかがわかる。
この言葉が印象に残った。
外国のご長寿の女性へのインタビューの話しだ。
つまり、女にとって、男の存在は邪魔以外の何ものでもないという女性の本音だ。
彼女たちにとって、家事も子育てもすべて押し付けてくる夫は、ただの給与配達人に過ぎないのだ。
とシングルマザーの遊佐リカは言う。
と姉はAIDを認めてくれない。
一番印象に残ったのは、AIDによって産まれた善百合子という人物だった。
彼女の思想は受け入れがたいが、妙な説得力があった。
自分の生を否定することで辛うじて生きている人なのです。
自分を被害者だと信じている。
子供の時、血のつながっていない父にレイプされまくった。
河原に連れていかれ、父の友達に輪姦された。
逢沢潤は、祖母にお前は、父の子じゃないと父の死後に知らされて
人間不信になる。そのことを婚約者に告げると婚約破棄された。
ヤンキーの常套句に、いつ、俺が産んでくれと頼んだ というのがあるが、鴻巣 友季子さんの文章にこんなのがある。
この映画は、自分を産んだ罪があるとして、両親を訴えた12歳の少年…の物語だ。
無職の両親、戸籍のない自分、まともに教育も受けられず、道でジュースを売り生き、妹まで強制的に結婚させられるという生き地獄の日々
それは善百合子の不幸に繋がる。
主人公は、愛する人の精子を提供してもらい。
子を産むという場面で物語は終わる。
この本を読んで感じたのは、子育ての環境が整備されていないという現状だった。
男性の意識改革は当然だが、子育てを支援する施設などの充実も必要だと思う。
お金を配るよりも、もっと子育てしやすい環境を作ることに税金を使ったほうがいいように本書を読んで感じました。
2023 12 4
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