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書評 不確定世界の探偵物語 鏡明   世界に1つのタイムマシーンの存在は歴史を改変する。人間が神になるのは正しいのか?。

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SFハードボイルド。すごく面白い。
夢中でむさぼり読んだ。

世界に1つのタイムマシーンがあるという世界。
ブライスという権力者が所有していて、歴史を改変している。

彼の目的は世界を良くすること。
実際、過去を変えることで現在は便利になっているのだが・・・。
プライムに頼るあまり、新しい技術革新がない。つまり、イノベーションのない世界なのだ。

そんな時代に、探偵をやっているのが、この物語の主人公ノーマン・T・ギブソンだ。

おれは私立探偵。だが、常に歴史が変わる──現在が変わりつづけるこの世界で、探偵に何ができるというのだろう?

歴史を改変するのだから、歴史改変ものなのだが、ミステリー謎解きでもある。
世界が不確定なので、色々と変化して、殺されたはずの人間が生きていたり、まったくの別人になったり、記憶や事件も改変されたりと大変だ。
頼りになるのは、自分の脳と助手で相棒のジェニファーだけ。

いくつもの短編が繋がって、1つの大きな流れに合流していくという物語。
アクションあり、秘密ありで、かなり面白い。

モチーフは、人間は神になれるのか?。
ブライスの作り出す世界はすばらしい。
だが、何かおかしい気もする。

誰かが一人で意思決定する世界が正解のわけがない。
過去にどうやら、日本列島が沈没したらしい。
それがブライスのせいらしい。

最終話の1つ前で、相棒で恋人のジェニファーが探偵の犠牲になり死ぬ。
最終話は、未来人がやってきて1つの提案をする。
ジェニファーを生き返らせてやる。
条件は、この世界の神であるブライスの抹殺だ。
だが、彼はブライスを殺さないという未来を選択する。

ゴットリーヴ たち は、 自分 たち の 時代 をより 良く する ため に、 ブラ イス を 消そ う と し て いる。 だが、 それ は 果たして、 より 良い 未来 を 生み出す のか?   結局 の ところ、 新た な 未来 の 誰か が、 その 時代 と 過去 の 歴史 に 不満 を 抱く に 過ぎ ない のでは ない か。 人間 なんて、 そんな もの だ。 「何 を 考え て いる?」   ブラ イス が 言っ た。 「あんた の やっ て いる こと の 無意味 さを、 考え て い た だけ だ。 より 良い 世界 など、 ありゃ し ない という こと を 考え て い た ん だ」 「こんな 時 に 考える に し ては、 妙 な こと だ な」   ブラ イス は 笑い声 を あげ た。 「ギブス ン、 君 の 考え て いる こと は、 よく わかる。 だが、 無意味 だ と いっ て、 何 も し ない こと こそ、 最も 意味 の ない こと だ。 それ が どう あれ、 より 良い 方向 に 近付こ う と 努力 する こと に 意味 が ある。 この 世界 は、 その よう に 作ら れ て いる の だ」


未来をより良くしたいと願うことは大切だと、独裁者ブライスは言う。
だからこそ、ギブスン探偵は彼を殺すのを辞めたのである。


あとがきがおもしろい。


SF を SF に 縛り付け て いる 無数 の 制約 から 解放 し たかっ た の だ。   この 物語 が 扱っ て いる 主題 を 例 に すれ ば、 なぜ、 過去 を 変え ては いけ ない のか?   過去 に 旅 を する という 極めて 魅力 的 な、 そして 自由 な アイディア が、 現在 に 連なる 過去 を 変え ては いけ ない という 規則 の ため に、 いつも、 現在 を 守る という 退屈 な 物語 に なっ て しまう こと に、 耐え られ なかっ た の だ。   なるほど。 過去 を 変え ては いけ ない という 規則 は、 現在 を 守ら ね ば なら ない という 規則 に 連なる。 が、 その 現在 という もの が、 守る に 値する ほど 素晴らしい もの なのか?   そんな 疑問 が、 私 には、 あっ た。

その結論が、この世界の神であるブライスの発言だったわけである。


無意味 だ と いっ て、 何 も し ない こと こそ、 最も 意味 の ない こと だ。 それ が どう あれ、 より 良い 方向 に 近付こ う と 努力 する こと に 意味 が ある。

でも、果たして人に神の重責をおえるのだろうかという疑問か生じる。
権力が集中した世界で、人が何をしてきたかは歴史が証明してきているように思う。
私は、人は神にはなれないと思います。


2020 3/12


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