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感想 新章神様のカルテ  夏川 草介 舞台が大学病院に移ります。個性的なパン屋というあだ名の准教授のキャラが際立っていました。

新章、舞台が大学病院に移ります。
だから新しい章なのです。

当然、今までとは立場が違う。組織が大きいぶん、それだけ思うようにはなりません。
組織の歯車、中間管理職になるのです。

パン屋というあだ名の准教授のキャラが秀逸でした。
彼は大学の人的物的な資源をパンにたとえて、その配分が大切というのです。
ある患者を助けるため、ある患者は見捨てるという考え方ですね。

当然、一止はそんなへんてこな理屈を受け入れられない。彼の部下たちも反発します。
一止たちは、目の前の患者に全力投球します。だから、どうしても周囲と対立します。

本書のもう一つの魅力は、登場人物のキャラとあだ名の面白さです。

一止先生が住む御嶽荘では男爵、学士殿という個性的な人たちがおり、大学病院では上司の鬼切の北条、茶好きの部下利休、嫌味なボスで准教授のご家老などなど。ご家老はパン屋とも呼ばれています。


癌で余命がわずかという患者に対して

奇跡の是非は神様の領分です。できることに力を尽くすのは人間の義務だと考えています。


と全力で治療することを宣言する一止がかっこいい。
これこそ医師という一言です。

在宅治療、つまり、もう助からない患者にこういうセリフを吐きます。
彼女はこのまま死のうとします。でも、病院に行けば助かります。

生きることは権利ではない義務です。


この患者に様態が落ち着けば家に戻すと約束する。彼女はどうしても家で死にたいのです。
しかし、ケアチームの人たちは退院は無理、他の病院に移そうなどと責任転嫁します。

そんな先生や看護師たちに、利休が バカなのですか! と暴言を吐く。
どうして自分のことばかり考えるのだ。それでも医師か、看護師か。
医者なら、患者第一でしょと言いたいのです。

彼や上司の一止は、このことによりパン屋から批判される。
みんなからも批判される。
四面楚歌です。

ヘミングウェイの言葉を一止は引用し、自分たちのやったことが正しいと言います。

勇気とは重圧の中での気高さである。


どうしても長いものには巻かれるみたいな発想で逃げてしまいがちなのですが、そんな重圧の中で押し通す気高さ、患者第一という考えは鳥肌ものでした。



2024 7 9



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