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感想 家族解散まで千キロメートル 浅倉 秋成 仏像の盗難事件発生、神主が返したら罪に問わないと言っている。倉庫に仏像が・・・。父のせいに違いない。これは仏像を家族みんなで返しに行く物語です。家族とは何かを問う作品です。

引っ越しまで数日という日、倉庫から仏像が見つかる。
それは東北で盗難事件になり、今まさにニュースになっているそれだった。
神主は今日中に返還したら罪に問わないとテレビで主張している。

犯人は父に違いないと家族みんな思う。
というのも、この家の父はまともに働かない、ダメ人間な上、息子たちが子供の時に、近所のおもちゃ屋の女店主と、まさに仏像が見つかった倉庫で浮気をしているのを娘に目撃されているのだ。
さらに、父は、そのおもちゃ屋の名物人形の盗みまでしていた過去がある。

この物語は、仏像を東北まで返しに行く物語です。
その間、色んなことがあります。
そのスリリングな展開が面白い。尾行してくる不審車両、謎のパンク事件。
仏像の近くに置いてあった謎の紙。
犯人は、金を貰って、この倉庫に盗品を隠していたみたいだ。

父を疑い、借金のある兄を疑い、不審な態度の姉の婚約者を疑い、母を疑い。
この推理の過程もなかなかに面白い。

神主が仏像を破損したにも関わらず、まったく罪に問うてこない点や犯人が曖昧なまま日常に戻る様は少し気持ち悪いのですが、これはフェイントで、XXの婚約破棄からの失踪。ここから、犯人の動機や事件の真相が見えてくるラストまで一気に突っ走ります。

前半のスリリングな展開がやはり魅力的でして、それと犯人の動機の部分。これが作者が本書のモチーフにしたところだと思うのですが、少し考えが時代より先に行っている感じがします。
しかし、未来の家族像を提示しているかのようで個人的には楽しかったです。

不倫っていけないことなの?。
と姉が問います。

確かに、家族に迷惑をかけるのですから、良いことではありません。
でも、この個人の罪を、どうして家族という単位で連帯責任しなきゃならないのか。
この問いは興味深い。

倉庫で仏像が見つかり、たぶん、犯人は父だと思った、彼ら家族は、こう考えた。仏像を時間までに返却しないと終わるって・・・。主人公は婚約中で相手は警官です。バレたら婚約破棄です。兄は会社を経営している。姉も婚約者がいます。

父のためと言いながら、本当は自分のために仏像を返却しようとしているのです。
それは父の犯罪は、子や妻にとっても連帯責任だからです。

どうして連帯責任になるの?。
悪いのは父親じゃん。
こういう問いかけをされているように、本書を読んでて感じました。

この家族バラバラです。
父の浮気騒動から後、夫婦間は冷めきっていて、子は父を嫌悪している。父は居場所がなく旅行ばかりしている。

姉の婚約者の言葉が興味深い。

僕らが普通と感じているあの家族像って、たぶんものすごく一元的で、驚くほど視野が狭くて、びっくりするくらい自分勝手なんです。



家族と常識という言葉が、個人を雁字搦めに縛り付けているような印象を受けました。

家というのは安らぎの場のはずなのに、この父は居場所がなくて息苦しさを感じています。家族と一緒にいるのが苦痛なのです。しかし、世間体や常識があるから父という役割を放棄できない。それは母も子も一緒なのだと思う。

主人公は、妻となるはずの女性と両親との同居を考えている。
理由は家族だからということだが、それを母は希望するかもしれないが、父はたぶん、そうは思わないと思う。彼女も本音では嫌だと思う。

家族のために不幸になることが正解なのでしょうか。
違う気がする。

家族だからという固定観念が、義務みたいに重石になり生きづらくしているように感じた。
最終的に、この家族は解散する。
これが正解なのだと感じました。

人は幸せになるために家族を作るのです。それが個人の翼を折る。自由を抑圧する装置になっているのだとしたら、それはもう本末転倒なのでありまして、家族を無理から維持する意味なんてないというのが著者の主張なのかなと感じました。

壊れている家族に執着するのっておかしいよ。
そんなの誰も幸せになれないよ。
そんな問いかけをされているみたいでした。

浅倉 秋成さんというと、六人の嘘つきな大学生とか、俺ではない炎上とかミステリー色が強い優れた作品が多いのですが、本書はミステリーなのですが、そこよりもフォーカスが家族の未来像になるのだと感じました。ミステリーとして期待すると少しがっかりするかもしれませんが、僕はこのモチーフ大好きです。読む価値のある作品だと思います。

2024 4 24




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