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書評 別冊NHK100分de名著 若松英輔 特別授業『自分の感受性くらい』   若松 英輔  今日しか見つけられない言葉、明日になると見つけることの出来ない言葉が存在する。

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詩とは何か?。言葉とは何か?。
それを「茨木のり子」さんの詩を深堀りすることで提示したおもしろい本でした。

詩を書くということは、今日しか見つけられない言葉、明日になると見つけることの出来ない言葉が存在する ので、それを書き残しておくことである。
その部分が印象に残った。

読むことと書くことはセットであると、若松さんは言っている

「 読む」 と「 書く」 は、 呼吸 の よう な もの です。「 吸う」 と「 吐く」 が 一体 と なっ て 初めて 呼吸 で ある よう に、「 読む」 と「 書く」 が 一つ に なっ た とき、 とても 豊か な 言葉 の 経験 が そこ に 生まれ ます。

詩とは何か?

詩 は、 おもい を 言葉 に 置き換える こと で ある よりも、 言葉 のち からを 借り て、 容易 に 言葉 に 収まら ない 何 かを 世に 送り出そ う と する 試み なの かも しれ ない。

心で書いた言葉は、心に届くとも書いてありました。
これはわかる気がする。

私たちの身体は食べ物でできているが、心は言葉でできているのだそうです。

人生 には 幾つ かの 壁 が あり、 そこ には 次 の 世界 へと 続く 扉 が ある。 その 扉 の 鍵 を 開ける のは 言葉 です。『 千夜一夜物語』 には「 開け ゴマ!」 という 呪文 によって、 岩 の 扉 が 開か れる という 話 が あり ます。 この 物語 も 言葉 こそ が「 鍵」 で ある こと を 教え て くれ て い ます。

一人になることの大切さ

  読む と 書く という 行為 は、 みなさん を 必然的 に 独り に する。 言葉 は、 みなさん に 孤独 に なる こと を 求め て くる。

自分を深く掘り下げる行為の時間は、一人になるのが大切なのです。

茨木のり子さんの代表作「自分の感受性くらい」という作品があります。

自分の感受性くらい 茨木のり子

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性ぐらい
自分で守れ
ばかものよ

詩集「自分の感受性ぐらい」(1977刊)所収

 この詩は、私たちの誰もが、自分の心の中に畑のようなものを持っている。言葉は種だ。心の大地に水をやり、そこで様々なものを育てようということです。
 懸命に生きることや、愛することを諦めたりする時、人は「水やり」を怠ってしまう。気難しくなる時は、自分のありようを見失っている時。自分の人生を他人のせいにするなということです。

「読む」「書く」「生きる」「味わう」をずっと考えていれば、・・・必ず確かなものにぶつかる。誰かが良いと言ったものではなく、自分の心を照らしてくれるようなもの・・・、それは本なのかもしれない。1つの言葉なのかもしれない。

 生きるとは、今を生きること。今を見つめないと大事な道行きが見えなくなる。
 だから「自分の感性くらい/自分で守れ/ばかものよ」と茨木さんは言っているそうである。

読むこと書くことの本書の考え方がおもしろい

読むことによって己を知り、己に向けて書くというように方向転換していくのが大事
書物は・・・たとえ、その中の一節、あるいは一語に出合えれば、大変大きな力を持つことがあります。
外から与えられたものは、常に、臨時のもの・・・
 大切なものは外にあると思われがちだが、本当に大切なものは自分の心の中にあるということらしい。

 何故、人は詩を書くのか?

自分を自由にするため、本来、芸術は私たちを自由にするためのもの。自由とは、その人をその人らしくするということ。

 若松さんは詩を書くことをすすめている。
 5行詩を書いている作家を紹介し、まずは、5行からやりはじめると、とっつきやすいと言っていた。

 最後に、茨木さんの「言いたくない言葉」を紹介します
 これはいい詩だと思います。

言いたくない言葉 茨木のり子
心の底に 強い圧力をかけて
蔵ってある言葉
声に出せば
文字に記せば
たちまちに色褪せるだろう
それによって
私が立つところのもの
それによって
私が生かしめられているところの思念
人に伝えようとすれば
あまりに平凡すぎて
けっして伝わってはゆかないだろう
その人の気圧のなかでしか
生きられぬ言葉もある
一本の蝋燭のように
熾烈に燃えろ 燃えつきろ
自分勝手に
誰の眼にもふれずに


この本を読んでいると詩が書きたくなる。
詩集が読みたくなる。
そういう何かのきっかけになる良い本でした。

2020 2/16

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