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感想 夏空 東京湾臨海署安積班 今野 敏「犯罪者ってのは、驚くほど勤勉なんだ。欲望を満たすためにはどんなことだってする」。これからの警察はますます大変になっていくという示唆が本作にはあります。

今野敏さんの人気シリーズ安積班の最新作です。
本作の特徴は、事件に今を取り入れていること、少し社会性を帯びていて、読者を選ぶ傾向があると感じました。
簡単に言うと、おじさん向けの小説。

ミステリーですが、ポアロやホームズのような探偵は出てこず、チームで事件を解決。謎解きの楽しさはほとんどありません。短編集なので事件が矢継ぎ早に発生し解決していきます。

びっくりしたのは刑事は覆面バトで現場に直行と思いきや徒歩、電車、バスって・・・。

社会性を事件に反映させたと述べましたが具体的には、お年寄りの運転の問題、外国人の犯罪の問題、ユーチューブバーの悪行などなど。

最近、高齢者の運転事故が多発していると報道されている。
成敗というタイトルの短編は、そこにあおり運転をプラスした内容になっていた。
高速道路で逮捕されたのは高齢者、若い男に暴行を働いた。高齢者はすべての罪は自分にあると言い、ドライブレコーダー映像も提出しない。
ここに見てとれるのは、あおり運転と高齢者の犯罪に対する意識の問題だ。
少しネタバレさせると、あおり運転をした若者に腹をたてた高齢者の男が、注意し聞かないので成敗したという話しだ。

刑事がこんなことを言っている。これが著者の考えなんだと思う。社会的というか、政治的な発言だ。おじさん受けする小説と言ったがこういうところがです。

正義の味方は悪党を徹底的にやっつけていた。それが今じゃ、誰も戦わなくなった。・・・誰も戦わないから、誰かを殺してみたかったなんてふざけたやつが、無差別に他人を殺傷するのを許しているわけだ。


幼稚園では徒競走で同時ゴールさせ優劣を決めない。日本は争わない国になった。目の前で犯罪が発生しても巻き込まれたくないからスルーする。
この武士のような高齢者の男を通して、著者はそういう社会の変化に警鐘を鳴らしているのだと思う。
しかし、やってもいない罪まで、いくら武道の達人が手を上げたからって、すべて背負うのは正義ではないと思う。

タイトルの夏空という短編はいい。
ユーチューブバーが飲食店でクレーム。わざと難癖をつけ、警察が出動。彼はかけつけた警官にもカメラを向け、女性警官にブスだの何だのと誹謗中傷、煽る。そのカメラを少しはらおうとした警官に暴力行為をされたとクレーム。警官は訴えられた。

こんなことで、警官は取り調べを受け、解雇寸前まで追いこまれる。
警官の立場の難しさが、この事件には明確に見て取れた。

上司を殺害した部下の話しは、世代という短編なのですが、上司はその転職ばかりしていた若者を飲みに誘ったり、鍛えたりしていた。それはその人を育てるためだったのだが、部下はパワハラと認識し殺害。

外国人犯罪の難しさを描いた略奪は、これからの未来の日本を暗示する内容だった。
肉体労働を日本人の若者はしなくなった。だから、外人に来て貰うしかない。でないと社会が成り立たなくなっている。これが政府が移民を受け入れる理由なのだそうだ。

外国人がいないと働き手が見つからないんです。日本はもうそういう国になっているんです。


将来、自衛官や警官までも外国人になるのではと心配までしている。
たしかに、そういう未来はあるのかもしれない。

外国人は価値観や文化が違う。
だから難しい。

日本の警察も外国人に対する偏見があるから強く当たる。するとますます彼らは疎外感を強くする。
警官相手に平気でナイフを使う。

しかし、そんな彼らと僕たちは共存していかないと少子化の日本はやっていけない。
これからの警察の大変さがこの事件には見てとれます。

本書に共感するところは、外国人犯罪は酷く悪質だから彼らを排除しようというのではなく、彼らの異質さを受け入れようとする姿勢がいい。

日本がもう、日本人だけでやってけないなら、アメリカみたいに移民を入れるしかない。
彼らのアイデンティティも尊重しながら共存していく社会。それが日本の未来ですが、警官の立場とすれば難しいというのが現状みたいです。



2024 4 5
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