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書評 オードリー・タン 自由への手紙  台湾の現役IT大臣の「自由」に対する見方はおもしろい。

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オードリー・タンは台湾の現役のIT大臣だ。
台湾はコロナ対策において世界の教科書となった国である。
その立役者が彼だ。

本書は、彼に対するインタビューをまとめた内容のため
少し内容が希薄だ。
でも、そこにはオードリー・タンの哲学が凝縮されていた。
とても読みがいのある本だと思う。

彼の思想の核は「多様性」だと思う。
制約とか固定された価値観からの解放だ
彼の考える「自由」が本書には示されている。

その前に、彼自身のことを語ろう。
彼は性的なマイノリティである。
だから、少数派の辛さが理解できる。
そして、IT関連の会社もやっていた。
ITに関して知識がかなり豊富だ。

そういう人物を大臣として起用できる台湾という国がすごいと思った。
コロナ対策に関しては、マスクがみんなに行きわたるように手配した。
昔の配給制度に近い形だが、確実に手に入るので安心感がある。
保険制度も充実している。これは外国人にも適用されるので
治療費についても安心できる。

つまり、不安な人たちに「安心」を与えたのが彼のやり方だった。
マスクの在庫についても、随時情報を公開した。
色んな情報をオープンにすることで不信感を抱かれないようにしたのだ。

ネット社会について、彼はこう言っている・

格差がインターネットによってガラス張りになり、誰にでも見えるようになった。

それによって、今まで知らなかった富裕層の生活が見えるようになった。
そして、人々は無力感を感じるようになった。

民衆が荒れるのは、そのためだろう。

そんなネットを上手く彼は利用した。
それはマスク管理アプリだ。正確な情報が毎日発信されるので国民は安心できる。
実名制で一人二枚のマスクを、誰もが週に一度、確実に買えるようにしたのが良い。

不安や混乱を助長したネットを安心を提供できるツールにしたのが彼のすばらしさだ。

彼の基本的な考え方は「多様性」が大切であるということである。
だから、文化もジェンダーも境目などないと考えている。

2019年5月台湾はアジアで初めて同性間の結婚を合法化する法案を可決した。
彼の言葉は力強い。

どんなかたちでもいい。
どんなつながりでもいい。
家族の一員になった人が、それを「家族だ」と認識できるようにすることが大切です。

この考え方は、制約からの「自由」を意味する。

それはジェンダーにとどまらず、ヒエラルキーや格差の問題にも波及する。
移民を受け入れるということも、そのことである。

政治に関しても江戸時代の目安箱のようなネット上で議員と国民が情報交換できる場もあり、それが政治に反映されている。民衆と議会が繋がっているのがいい。

彼は香港の活動家たちの「水になれ」というスローガンをリスペクトしている。

リーダーは一人ではない。
何千何万の人が、それぞれリーダーになりうる。
いかに優れていようと、いかにカリスマであろうと「たった一人のリーダー」よりも大勢の、一人ひとりの力が重要です。


素晴らしい考え方だと思う。
リーダーに大切な資質は、透明性と説明責任能力なのだと彼はいう。

「政府がこれをしているのはなぜか」ということを国民に説明する。アカウンタビリティ(説明責任能力)が大切なのです。

数種類の言語を学ぶことの意味も解いています。

言葉で世界にドアを開ける。

外国語を学ぶことは、別の思考形態を学ぶことであり
多様性が重視されるこれからの社会では不可欠なのです。

テクノロジーは敵なのか?
この議論もたのしかった。

テクノロジーで労働力は補える

人間の労働とロボットの労働の「質」が違うという議論がありますが
彼は差異はないと言っている。

テクノロジーで認知労働も供給しえる

と言っています。小説を書くなどの作業もAIには可能なのだ。

ロボットに仕事が将来奪われるのではという議論についての反論は少し曖昧でした。
奪われないと言っているが、奪われるのでしょう。

国籍にこだわることはよくない。
つまり、そこからの解放
多様性が必要であるとも言っている

一枚岩よりもおおまかな合意
この多様性こそが大切なのです。
違う人、ちがうもの、新しいもの、新しい人を受け入れることが大切です。
「こんな感じでいこうよ」
そんな大まかな合意で進んで行けば、よりたくさんの人々と共存することができるとも言っています。

2020 12/10




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