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感想 この胸に深々と突き刺さる矢を抜け上下  白石 一文 最低男の語る政治の理想や死生観は古臭くて、まったく共感できず、政治を語る小説というものの鮮度の大切さを痛感した。

主人公は、雑誌の編集長だ。彼は癌患者でもある。
生きているという感覚が鈍感になっていて、自己中心的な思考の持ち主だった。

冒頭からエグイ。
彼はホテルにグラドルを呼び出す。セックスをするためだ。生理だと拒む彼女を、社長に電話し恫喝し無理やりに近い形で事をなす。ほぼレイプだ。
その様は鬼畜としか思えない。

枕営業という言葉は聞いたことがあるし、実際、芸能界やホストの世界ではよくあることだと言われている。
よくは知らないが、関西では超人気の松本さんが、後輩に女性を上納させていたという報道があった。
こういうの聞くだけでも気分悪い。

そんな枕営業を求める男が主人公です。
仕事では、政治家の不正を追及している。みんなからは正義の塊みたいに見られている。
その内実、部下が1000万の金を猫ババしていたのに、上司も絡んでいるとわかると隠ぺいするという最低な男だ。

そんな男が、政治や死生観について饒舌に語る
それが本書の骨格なのだが・・・考え方が古いと思う。

小泉政権がとか、松坂がとか言っているから
時代背景が古いのは理解できるが、それにしても、この本に出てくる政治的な考えはあまり共感できない。
たぶん、僕と思想的に違っている考え方なのだと思う。

とは言え、この時代、僕もこういう考え方だった。
ピケティのあの本が出た少し前の社会の雰囲気はああだったと思う。
政治を語るのは鮮度が大切だと、この本を読んでいて改めて感じました。

時間は動いていて、考え方は常にアップデートしている。
だから昔の小説を読んでいるとときどき変な感じになる。

本書で繰り返し主人公が主張するのは格差の問題でした。
松坂の年俸が年に10億もあると憤慨し、その金があれば飢餓の子供たち2000人を救うことが可能だとか、アメリカの有名CEOの名を出し、年俸が高すぎるとか何度も何度も主張している。

確か、大谷の年俸は、その松坂よりも10倍だったと思う。著者が知れば発狂するかもしれない。

フリードマンの新自由主義が正義と言われた時代であり
それは今も正しいと考えられている。

頑張れば、誰でもアメリカンドリームを獲得できる。
夢のある世界。
しかし、逆に落ちこぼれは底辺に追いやられる弱肉強食の世界でもある。

たぶん、著者はそれは違うと言いたいのだ。
確かに、松坂の年10億の年俸は高い、派遣社員は300万くらいだから、そう感じるのはわかる。
松坂と、その派遣社員との間に、人として、そんなに格差が生じるのは世界が変なのだ。新自由主義が変なのだということが著者は言いたいのだ。
異常だとか、間違っていると著者は叫ぶが、そこまでとも僕は思えない。頑張っても頑張らなくても同じの共産主義よりかはましだと感じるからだ。頑張った人が夢を叶えられる世界は健全である。

累進課税をもって高くしてと彼は主張する。
貧しい人、とくに海外の困っている人を、その金で助けようという考えみたいだ。


そんな彼が、妻の浮気を知ると離婚だと騒ぐ。自分の浮気はOKで妻は認められないというのはどういうことなのか理解不能だ。貞操が大切だと妻だけ責める。

自分の浮気を正当化する、この考えには吐き気がする


SEXの相手というのは、言ってみればボクシングの対戦相手みたいなものではないかと。拳と拳とでフルラウンド徹底的に殴り合った相手はただの他人ではない、だが、その相手とずっと人生を共にしていく必然もないし、彼もまた、すれ違う人間の一人でしかない。


だから、俺は色んな女と寝まくるのさって、それ、有名人を妻にしたら浮気できんから、俺は一般人と結婚したという松本さんと同じ理屈に思える。


政府の有無についても著者の意見は激しい。
政府のやることは金ばかり使って費用対効果がすこぶる悪い。
そんな政府はいらないとか言っている。

無政府主義者なのかと思ってしまう。

もともと国家と言うものは僕たちに必要ないものだ。国家という単位は、人間集団の適性範囲を遥かに超えている。人間どうしの殺しあいが常識の範囲をはるかに超えたのは、国家という統治単位が登場してからである。国家は必然ではない。それは構成員である国民個々をないがしろにしながら拡大する利己的組織でしかない。


国家がなかったら、今回の地震が起きた場合など支援はどうするのか。自衛隊もないのですよ。
国家の弊害はあるとは思うが、いらないというのは極端に感じる。

読んでてイライラする本でした。



2024 1 20
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NO15



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