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感想 月と日の后 冲方 丁 女が政争の道具だった時代に、夫に死なれ、絶対的な権力者の父が死に。その後、まるで中国の西太后のように君臨した女傑の葛藤を描いた秀作。

「光る君へ」の世界そのままでした。
びっくりしたのは道長の妻倫子が90歳まで生きのびたことでした。
息子の頼道と弟、この物語の主人公である藤原彰子も80まで生きます。
これは倫子の血だと思います。

最初の望月の章で、まだ、少女だった主人公彰子に夫の一条天皇の母藤原詮子が語る藤原家の黒歴史のインパクトが強かった。大河ドラマのダイジェスト版のようでした。ここからの話しもあるので予告編なのかもしれません。

道長の父の兼家の悪行から、兄道隆の子伊周との確執。
藤原詮子の恨み節さく裂でした。

恨み恨まれた時は最後まで恨み通すのです。
さもなくば相手の恨みに負けてしまうでしょう。


内裏とは互いにどれほどの怨霊を背負えるのかを競う場、そこでは生きることが恨むことなのです。それをよくよく覚えておきなさい。


彰子は絶望します。
優しい叔母の豹変に驚くのです。


いったい自分たちは何なのか。子を産まねば蔑まれ、子を孕んでは争いの種となり死ぬことで安堵される。このような人生をどうしたら喜べるのか。


彰子は、この後、父道長の道具として二人の天皇になる子を出産します。
父の道具にはなりたくなかった。だから、事あるごとに自分をアピールします。

道長の死までが面白く。そのせめぎ合いは神経戦に近かった。

でも、父が死に頼りない弟頼道が後継になると、彰子は影のフィクサーとして君臨するしかなくなります。
その姿は中国の西太后のようでした。
やたらと多い放火、深刻な病の流行。やたらと怨霊を恐れる人々。息子たちの苦難を助けるしかない立場になっていくのです。
最後の方は読んでいてしんどかった。苦難の連続でした。紫式部との友情くらいしか楽しい場面はなかった。

歴史の教科書では語られない藤原家絶頂期の真実がここにあります。
それは苦難の歴史と言ったほうが良さそうです。

あれほど家に利用されたくないと思っていた彰子でしたが、天皇である息子のため、弟のため家族の為に奮闘します。父が死に、自分がそのすべてを引き受けるしかなかったのです。

その姿は道具などではなく、彼女こそが藤原家の大黒柱なのでした。

2024 5 13



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