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感想 いちまい酒場 池永陽 深夜食堂かと思った。設定、かなり似ているし、話しも雰囲気も似ている。つまり面白いということです。

寡黙、料理が上手い、人情にあつい、過去にわけあり・・・
なんとなく深夜食堂に設定が似ている。というか、そのまんまの気がする。


つまり面白い。

このままテレビドラマ化しても問題はないと感じた。

本書の特徴は、やたらと昭和の男とか、昭和の女というキーワードが続出することだ。
平成生まれの人はドライで、昭和生まれの人は湿度があると言われている。

この湿度は、粘着質とか、やたら馴れ馴れしいという無神経さの比喩として使われることもあるが、本書では、他人の喜びを我が喜びにし、他人の悲しみを我が悲しみとできる人たちということになる。だから人情が成り立つ。故に昭和なのか。こういう短編集は好みだ。

深夜食堂の店主に比べると、この店の店主は行動的で、客に何かあると身体を張って守るのです。
最後のヤクザの幹部との殴り合いなんて、深夜食堂ではありえない展開。

店は新宿の裏通りにあり、いっぱいというシミだらけの暖簾の先に小さな空間が広がる店なのです。
名物はいちまいセット。千円でビール大と大きな串カツ、野菜あげ、小鉢、漬物、ごはんのセットになっています。
東京では珍しい味噌だれです。
これが美味。

ここの客たち、みんな家族みたいに仲が良い。

ある時は、ストーカー被害の解決をしたり、援助交際をさせられようとしていた女子高生をじいさん軍団が助けたり、身体のでかいトラック運転手の恋を見守ったりと楽しい。

化粧品店を営む中年の女性が主人公の話しが面白い。
味噌の味という短編だが、息子は長野の大学に、亭主は死に独りぼっち。
そんな時、同級生の男と再会し、流れで寝てしまう。その男がストーカーみたいになり結婚を迫ってくる。

この女性は間がさしたのだと思う。
他人と自分を比較し自分は不幸だと感じた。同級生の彼に自分を感じ身を重ねた。
でも、すぐに間違いと感じた。

そんな彼女に店主は言う。

幸せなどと言うものは、みんなで分かちあうもんじゃなく、一人でひそかに噛みしめるものだ



傷を舐めあうような関係性は一時的であり、それは愛ではないでしょとでも言いたいのだと思う。
誰かと生きなきゃいけないなんて決まっていない。


もう一つ、店主の言葉で印象に残ったのは、これです。

この世で起きたことは、全部この世が解決してくれる。何とかはなつていくから大丈夫だって


店主や常連客の優しさが心地よい。そういう短編集でした。




2024 6 16



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