書評 無貌の神 恒川 光太郎 独特の世界観でした。とても楽しい短編集。
恒川さんの作品は、短編が独特で楽しい。
本書は短編集。6つの作品が入っていて、どれもクオリティが高いです。
あとがきの解説に、恒川さんの文体について触れたところがあります。
恒川作品の文体が、まったくといってよいほど奇を衒わず、常に平明かつ明晰でありながら、読む者にたいそうなまなましく、異界の感触と消息を伝えて余りある秘密の一端は、おそらくは、こうしたさりげなく濃やかな措辞のうちにひそめられているに違いない。
異界なんですよ。
初期の名作「夜市」でも感じたが
この異界を感じさせる何かが恒川さんの魅力ではないかと思います。
表題作「無貌の神」。
この作品は、顔のない神がいる世界で、そこには別の世界から人がやってきて
神は定期的に殺されて、その肉を皆で食う
神を殺した人間が次の神となり
神の肉を食うたものは外界には戻れないという話し
「わたしらは神さんで、神さんはわたしらだ。わたしらは神さんに喰われて、神さんは結局は、聖なる食べ物になってわたしらに喰われる。ぐるぐる巡って、その巡りこそが〈永遠〉なんだよ。その一部に加わるのだもの。嬉しいことだよ」
この話しと仏教の「輪廻」って似てませんか?。
話しの底に、こういう何か神話とか民俗学とか、そういう知識が見えない形で組み込まれているのも恒川さんらしい作り方です。
「こうしてあんたの中に入ったんだよ。もう二度と離れることはない」
神の肉を食う
これって、キリスト教の血肉をわけるとか
あの儀式っぽい。
影男は、屈辱や敗北の記憶、自殺衝動といった嫌なものを食べてくれるときもあるが、生きる情熱や、前向きなエネルギーや、幸福な記憶を食べてしまうときもある。
これは12月の悪魔という作品なのですが・・・
何かの神話に出てくる怪物っぽいのです。
これが近未来の刑務所というオチに繋がります
記憶を消され、隔離された街で受刑者たちが暮らしているという世界です
でも、それを本人も読者も最後まで種明かしされない
まるで、影男がいて彼らの記憶を消していて
そんな世界があるかのごとく
そういう世界を現出している
この独特の世界観が、恒川作品の魅力です。
すごく楽しかった。
こういう話しは好みです。
2022 1 23
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