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感想 小さな町 ソン・ボミ どうして母は、こんなにも過保護なのか。過去と現在を交互させながら、その謎を探る物語。韓国の歴史がよくわからない僕には、最後のオチが今一つ説得力がなかった。

最近の韓国文学は深刻な韓国の社会問題をモチーフにすることが多く面白いのだが、どうしても彼の国の歴史や文化に対する知識が欠如している僕たち日本人には少しリアリティがないこともある。
本書のスパイ疑惑の話しは、そこまで深刻な問題なのかとすら思えてしまい、どうしても、最後のオチの部分がすんなり入ってこなかった。
たぶん、日本の読者の中には、ミステリーとしての部分の謎解きに、とくにオチに落胆した人もいるのかもしれない。

しかし、これは純文学だ。知識がなくても雰囲気は伝わるし、著者の繊細な描写からいくつもの感情が泉の如く沸き上がっているのも感じ取れる。読みがいのある作品だと思いました。

本書は女性が主人公で一人称で描写している。
主人公は翻訳者だ。日本の絵本などを翻訳している。夫は芸能事務所に勤務。両親は離婚し、父とは疎遠、母は死んだ。
母が死んだ後からの時間軸である現在と、彼女の過去をランダムに描写している。

まず感じたのは、この母は歪だ。かなりの過保護である。子供をバスで送迎するのだが、学校の前まで連れて行き、帰宅時も学校の門のところまで迎えに行く。こんな親は他にはいない。あっても一年までだが、彼女は高学年になっても母は送迎をするし、何かにつけて口出しもしてくる。

両親ともに近隣住民とは関わり合いを避けているし、どころか委縮している。父は娘にまったく関心がない。犬を飼いたいと娘が言うとダメと即答される。

ママはね、あんたが産まれてくるって知ってたから、だから犬なんか必要なかったのよ。




その答えが変だ。この町は、大火事で人がたくさん死んで、その寂しさを埋めるために犬を飼っているが、うちは不幸はなかったのでとか言っているが、兄は死んだというのだ。

そんな彼女に母は、隣人の老婆と老犬を紹介する。ここの犬と遊べというのだ。しかし、彼女は老婆が不気味なので避ける。老婆もわかっているのか姿を見せない。犬には会いに行く。すると老婆の用意してくれたお菓子がある。このあたたかい交流のシーンが好きだ。彼女が犬に会いに行っていた時に老婆は奥の部屋で死んでいた。老婆の死体は数日気づかれなかったのだという。
あんなに世話になったのに、母は葬儀に行く必要はないと言う。

母親のこういう態度もあり彼女は卑屈に育った。イジメられたくないので、鬼ごっこでは鬼を引き受け、父の海外土産も友達にやり友達の機嫌をうかがう。楽器の才能に開花した彼女は一目置かれるようになりクラスの人気者に、その楽器の大会に出たいと言うと母はダメだと反対する。

出る杭は打たれる

それが母の口癖だった。目立つことはするなと言われ続けていた。

クラスに貧乏な子供がいた。彼に構うことが彼女のアイデンティティを充足させた。
彼に物を与えて清潔にする。彼をみんなの嫌われ者でなくすことが生きがいみたいに生きる。その姿はすごく屈折している。

夫の会社のパーティに有名女優がいつも参加していた。
その人が来なくなった。芸能界を引退するらしい。
夫や周囲の人は、今までさんざん迷惑をかけられたみたいでせいせいしているようだ。

彼女は反発する。
女優は会社にとって恩人のはずだ。なのに、その態度は冷たすぎると言う。
その時の夫の言葉が強烈だ。

応援だって?。あの女が可哀想な境遇に陥ったから、だから同情するのか?。そんな気分を味わいたいのか?。


そんな気分を味わいたいのか?
その言葉が気にかかった。有名女優の没落に対する夫や会社の人たちの冷淡な態度への反発は、かつて子供時代にやっていた貧乏な子に対してやっていたアレに似ている。
そういう同情でしか自分の存在を肯定できない彼女がそこにまだある。

そんな彼女を形成しているのは、両親の性格なのだが、実は母がそんな態度を取っていた理由が最後にわかる。ミステリーのような感じで、この物語は着地しますが、その原因は、僕にはリアリティがなくピンとこなかった。

問題は両親が何でこんな頑なな態度を取っていたのかということであり、それが子供の性格にまで反映してしまうということだった。

母にとっては、それは娘に対する愛情なのだが、本当にそれで良かったのかとも思えてしまう。
過去のある冤罪事件をめぐる因果が、この女性及び両親を不幸にしたという主張だと思うが、それだけなのかと考えてしまう。




2024 2 14
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