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逃げた犬

 人気のない薄暗い路地を犬は歩いていた。風もなく、空気が澱んでいる。饐えたような匂いが鼻をつく。空腹に耐えかね、その場にへたり込む。もう一歩だって踏み出せない。犬はここで終わりかと思った。
 そもそもこの路地に迷い込んだのは、偶々だった。何故か追ってきた人間から逃げようと入った、それだけだった。その後、歩けど、歩けど、出口はなく、薄暗い壁に囲まれ続けている。光が差すのは上からばかりで、前から広い道を示すような光は差して来ない。曲がれども、曲がれども、ただ、薄暗い道は連なるばかり。夜は更に暗く陰鬱で、歩く事も憚れた。
 何も落ちているものもなく、腹ばかり鳴り、とうとう動けなくなった。終わりを待つのだ。
 ふと、光が差した、と思った。しかし、目を開かず、それを感じるのみ。犬は安らいで死んだ。

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