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MUSTAKIVI presents... "Return to Sender"

今月から始まる連載企画「Return to Sender」 。 石本藤雄さんの作品について、毎月テーマを相談し、クリエイターの方々が感じたことを自由に書いていただきます。発信者である石本さんに感じたことを”返送する”という意味もこめたタイトルです。
最初にご登場いただくのは、ミズモトアキラさん。愛媛を拠点として、エディター、音楽家などなど幅広いジャンルで活躍されています。最近はご自身のnote"Think Twice"の連載やRadioも注目されています。
ムスタキビの代表黒川とも夜な夜な集まっては、エンドレスでクロスオーバーな(スタッフからすると着地点があるような、ないような?笑)議論を繰り返しているとか... 。一見、北欧的ではないミズモトさんによる連載企画がスタッフ的にも楽しみです。
ちなみに、Vuosikirjaというタイトルは、フィンランド語で「歳時記」。Kesakku6月という意味のようですね。それでは、どうぞ~。


Vuosikirja Vol.1
-Kesäkuu / 6月  "Seven Flowers"-

Text by Akira Mizumoto

 夏至といえば日本では毎年だいたい6月21日頃にやってくる、昼間の長さが1年でもっとも長く、夜がもっとも短くなる日のこと。
 日本や中国で使われている暦〈二十四節気〉でいえば、立夏(5月6日頃)と立秋(8月8日頃)のちょうど中間地点。つまり夏至は夏のはじまりではなく、中心にあたります。
 
 ただ、残念ながら日本では梅雨と重なっているので、湿気との戦いの真っ最中。なんとなくジメジメした気分で過ごしがちな時期ですよね。夏と言われればたしかにそうかもしれないけど……といった感じ。
 しかし、フィンランドでは長く厳しい冬がようやく去って、一日中照り続ける明るい太陽の光、そして新緑のシーズンの訪れを象徴するのが夏至です。

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 英語では”ミッドサマー”、フィンランド語で”ユハンヌス”と言います。
 短くも美しい夏のはじまりを祝う夏至祭こそ、クリスマスに次ぐ最も重要なイヴェントのひとつです。
 
 夏至祭の日には多くの人たちが都会を離れて、郊外へと移動します。そしてサマーハウスやコテージで過ごし、コッコと呼ばれる篝火を炊いて、野外での食事やダンス、サウナなどを楽しみます。

 石本さんも、マリメッコの創業者であるアルミ・ラティアポルボー(ヘルシンキから車で1時間ほどのフィンランドで二番目に古い街。昔ながらの建物がいまだに残っている旧市街が有名)に持っていたサマーハウスに招待されて、いっしょに夏至祭を祝うのが常だったようです。

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 ユハンヌスには人々の夢を叶え、未来に幸せをつかむためのさまざまな伝承があり、7種類の草花を集めて、夏至の日の夜に枕の下に敷いて眠ると未来の結婚相手の夢が見られる───という言い伝えがあるそうです。*1

 アルミ、そして息子のリスト・マッティから、この言い伝えを元にしたファブリックのデザインを依頼された石本さんが考案したのが、このとてもポップな「セブン・フラワーズ」(1979年)でした。

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 まっしろな生地にビビッドで生命力あふれる花々が描かれていて、とても眩しく華やかです。

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 石本さん自身が好む夏の花はコイランプツキ(Korainputki)のような、もっと素朴な野花だそうです。石本さんがコイランプツキの花束を頭に仮面のようにかぶって、アルミのパーティでおどけている写真も残っています。

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 画像:『石本藤雄の布と陶』(PIE INTERNATIONAL)より。

 コイランプツキは日本名では「杓」(しゃく)と、英語ではワイルドチャービルと呼ばれています。セリ科の多年草で、花茎は黒っぽく、小さく可憐な花は対象的に真っ白で、そのコントラストがとてもきれいです。葉の形はシダのようで、若葉はおひたしや天ぷらなどで食べてもおいしいそうです。

 余談ですが、スウェーデンの夏至祭を舞台にしたホラー映画が今年公開されて、たいへん話題になりました。タイトルはずばり『ミッドサマー』。

 7つの花の風習など、スウェーデンはフィンランドのお隣ともあって、ユハンヌスとも共通項が多いみたいだし、これを観ていればもっと違った文章が書けたと思うのですが、残念ながらコロナ禍の影響で上映館に駆けつけられませんでした。

 ちなみに今年のフィンランドの夏至祭は6月20日だそうです。
 他の国々と同様、まだいろいろ状況は厳しそうなので、自宅で家族と静かに夏至の夜を楽しむ人が多いかもしれませんね。

*1 他にも、裸で井戸の中をのぞくと、未来の伴侶の顔が水面に映る、とか、小麦畑の中を裸で転げ回ると1年以内に結婚できる、という伝承もあるそうです。ワイルドですね。いつか行ってみたいです、夏至のフィンランド。

 参考資料:『石本藤雄の布と陶』(PIE INTERNATIONAL)


 ミズモトアキラさんのお仕事はこちら▽


"あとがき"  

Text by Eisaku Kurokawa (MUSTAKIVI)

 ミズモトさんとの連載企画の第一弾で取り上げることになったテキスタイルは「セブンフラワーズ / 1979年」でした。

 石本さんが1974年~2006年の間にマリメッコ社でデザインされたファブリックの中でも「夏至」をテーマにしたデザインにはロングセラーが多いと感じられます。夏至祭の前日の様子が描かれたAatto(前夜祭)もそう。(幾つものテーブルが重なっている不思議な構図でありながら、リピートしても印象が変わらない構成力に注目)

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 フィンランドをはじめスカンジナビアに住む人々は、短い夏を謳歌することが幼いころからの習慣として定着しているように感じられます。その始まりの”合図”とも言える「夏至祭」の過ごし方は、様々な感情が伴う重要な”行事”なのだと思います。

 今年は特に、コロナからの解放 "without コロナ"という意味合いでも、早めに郊外のサマーハウスに行って、家族とゆったりした「なにもしない時間」を過ごす方が多いのかもしれません。(昨日届いたフィンランドの知人からメールの締めくくりは「Have a lovely Summer!」...まじか!)

 今週の月曜日に石本さんと電話で話した際に伺いましたが、まだまだヘルシンキの街並みは閑散としているみたいです。でも、石本さんも、ようやく今週から”2か月半ぶり”にアラビアに出向かれたそうですし、皆さんの努力によってアフターコロナに近づいているご様子です。日本のみならず、世界がこのまま順調にアフターコロナになることを切に祈ります。(石本さんは暫く散髪すら行けてなかったようで、日本を出て以来、一番髪が伸びていたとか...少し興味ありますね笑)

 さて、少しだけ「セブン・フラワーズ」のことを以下。

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 前述の通り1979年に発売されたテキスタイルですが、幾度か再発売され、その際に色違いも発売されたのではないかと思われます。今でも過去のデザインをシーズンカラーに変えて発売されるケースも多いので「秋っぽい色にしてリバイバル」...みたいな流れがあったのだと思われます(現在確認できているのは2配色)

 以前、石本さんから聞いた話ですが、テキスタイルの”ミミ”に書かれている”年号”は「70年代まで=発売された年」「80年代からはデザインされた年」に変わったそうです。当時コピー商品が多く出回り、その対策の一環としてデザイン年を表記するようにしたとか(発売するごとに年代を変えていたら、本当に発売されたかどうか不明確になる為)。79年のこちらは「発売された年」の年号という意味ですね。

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 マリメッコ社から以外にも米国のライセンス契約先「ダン・リバー」という寝具メーカー(当時はマリメッコ社の大口クライアント)からベット・カバーや枕カバーとして幅広く販売されていたようです。

 当時米国でも数多く流通していたデザインだった証拠に、今でもアメリカの某オークションサイトで「Dan River」と検索すると、まるで宝探しのように安価に見つけられます。(如何せん、少し薄手のシーツ素材なので使い勝手は悪い...)

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 石本さんのご自宅にも「セブン・フラワーズ」のクッションが置かれていました。

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以上、名作”セブン・フラワーズについてでした。

では、ミズモトさん、来月も宜しくお願いします。7月をテーマにしたテキスタイルに何を選ぶかを今から考え中ですが色々と7月に関連した名作がありそうです。また石本さんの帰国後には、こういった内容のリアル・イベントを他のゲストもお招きしつつ、MUSTAKIVI KOLME(7月オープン予定)でも開催できればと思います。

ちなみ、ミズモトさん紹介の「ミッド・サマー」という映画。僕は予告編の30秒くらいで恐怖リタイア... 興味ある方はこちらもぜひ。

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