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映画『ポセイドン・アドベンチャー』のワンシーン

突然、映画『ポセイドン・アドベンチャー』について書く。

『ポセイドン・アドベンチャー』は1972年に公開されたパニック映画の金字塔のひとつ(もうひとつは『タワーリング・インフェルノ』だろう)。海難事故に遭った豪華客船「ポセイドン号」の乗客たちのサバイバルと人間模様が描かれる。

実はこの映画、私は小学生か中学生の頃にテレビで放映されたもの(あるいは大学生の頃に深夜放送で、か)を、2、3度なんとなく観た程度である。詳細なストーリーはあまり覚えていない。

しかし今でもなぜか強烈に覚えているシーンがひとつある。

それは、主人公を含むグループが助かるべく試行錯誤をしていると、少し離れた通路に、まったく別の一団が歩いている姿が現れるシーンだ。

観ていた私は、それまで主人公たちにずっとフォーカスが当たっているので、生き残った乗客は彼らだけだと信じ込んでいた。それなのに、まだ生存者たちが(しかも多数)いたことを急に知ることになる。

この瞬間、このシーンが、ある種の恐怖を持って記憶に刻まれたのだ。

もちろんこのシーン、別に恐怖を煽るシーンでもなんでもない。何によって私は「恐怖」の感情を抱いてしまったのかよくわからない。

それはもしかしたら、この別の一団(結局、主人公たちの説得虚しく、彼らとは別の方への歩いていく)に予感される死の結末を感じ取ったからかもしれない。

もしくは、薄暗い遠くの通路を幽霊の一行のように歩いていく一団の姿が怖かったからかもしれない。

あるいは、自分たちとは違う人たちが、何も知られるまま生きてそして死んでいくことへの根源的な恐怖かもしれない。

ストーリー全体の中ではさほど盛り上がるわけでもないこのシーンを、私は奇妙に覚え続けている。これも映画の持つ不思議な魅力の一つかもしれない。

ダンテ・アリギエーリの『神曲 時獄篇』の「第十五歌」、ダンテが師のブルネット・ラティーニたち一行と出会うシーンを読んで、ふと思い出したので、書いてみた。

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