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書のための茶室(一):はじまり

山平 昌子(以下、昌):ついに始まりましたね。

三尋木 崇(以下、崇):そうですね。よく分からないままに呼ばれてきましたけれども。

昌:もう、一年間「ひとうたの茶席」やって、疲れちゃってね。

崇:何が疲れちゃったんですか?

昌:「ひとうたの茶席」というのは書と表具と花の企画なんですけどね。それぞれの分野のプロが思いっきりやってくれて、夫がいい感じに写真も撮ってくれるのはいいんですが、疲れちゃったんですよね。かっこつけとくのが。

崇:かっこつけてたんですか?

昌:そう。根本さんに合わせて高尚な雰囲気にしないとと思って、がんばったんですよね。そのうちに私が書も書けてお茶もできる人みたいに勘違いする人まで出現して、現実との乖離が激しくなってきました。そういう勘違いを今年は正して行きたいな、と思って。違いますからね、みなさん!!

崇:誰に向かって言ってるんだろう。

昌:まあそういうことで、もうちょっと軽い感じの企画やりたいなと思って、妄想の中で茶室を作る、というのを思いつきました。

崇:そこで私が呼ばれたわけですね。 

昌:手近にいる、お茶も分かる建築士ですからね。企画名は、「妄想軒」としました。

崇:「夢想庵」と聞いてましたが。

昌:そうだったかもしれません。じゃ、第一回のゲストをお呼びしましょう。

根本 知(以下、知):こんにちは。

崇:結局、根本さんなんですね。

昌:お茶室を作りたい、とおっしゃったんで。

崇:こんにちは。この企画は、茶室を作りたいというゲストのお話を僕が聞きつつ、一緒にアイディアを広げて、最終的に設計図に起こしていくという企画です。

昌:趣旨説明、ありがとうございます。

崇:もちろん本当に作るわけではありません。

昌:分かりませんよ、人生何があるか。

崇:ともあれまず、お話をお聞きしましょう。お茶室を作りたいと。

知:そうなんです。いつかお茶室を作りたい、という話を昌子さんにしたら、いつのまにかこういう企画になっていました。

昌:やはり夢は具体的に描いた方が良いですからね。心の中で描く分には資金・土地の制約もありません。ま、自由にやってください。

知:最近僕、「書の風流」という新刊の出版記念のお茶会を、国立博物館の茶室でやっていただいたんです。

崇:僕も参加させていただきました。とても素敵なお茶会でしたね。

知:ありがとうございます。そこでの小間席が、本当に良かったんですけど、僕には小さくって、窮屈で。

崇:特にあそこは小さいですからね。昔の人のサイズ感というか。180cmを超える人には小さく感じそうです。

知:僕にも窮屈でなく、また書家の僕が作るお茶室が欲しい、と思ったんです。

崇:聞かせてください。

知:今考えているのは、書を見るためだけの茶室です。

崇:ギャラリーを兼ねるイメージでしょうか。

知:そうですね。全部で3箇所のポイントを考えています。外の世界からエントランスに入ったところで、まず一つ作品を見ていただきます。

崇:ふむふむ。

知:そして露地を進んでいくと、次の作品が見える。これが二つ目の作品です。さらに腰掛け待合にも、一つ作品を置く。これで三つ。という風に、同時に見えるのは必ず一作品だけにして、それに向き合ってもらいたいと思っています。そして茶室に入る。

崇:茶室の床もありますよね。

知:はい、ですが茶室の床には作品を置かないんです。

崇:ほぅ。

知:僕は書家ですが、最終的には文字を離れたいという思いがあります。「不立文字」という言葉がありますが、文字に立脚しない境地に達したい。また、利休がある時期まで床に書を飾らず、花だけを飾っていた、というエピソードも念頭にあって、3つの作品を見た後、床は花だけにしたいんです。

崇:その3つの場所にそれぞれどんな作品を飾るのか、もうイメージはありますか?

知:もちろんその時々の展示のコンセプトによりますが、例えば、エントランスには、漢字一文字だけを飾る。そして露地には2、3文字の熟語に増えていき、そして最後の待合には自詠の仮名作品を掛けたい。

崇:最後は文字のない空間に至る、と。

知:順番に作品を見ていくことで、物語性を持って見る人にアピールできるとよいなと考えています。それからもちろん、建物自体にもそれに呼応するようなコンセプトを持たせたいんです。

崇:面白いですね。

知:「ひとうたの茶席」のインタビューでもお話したんですが、僕の専門である平安仮名には、ちらし書きという手法があります。その文字を僕は植物と捉えて、自分でも、生徒さんに教える時にも、自然界にある葉っぱのように書いていく、ということを常に念頭に置いています。

文字は人間が作ったもので自然物でありませんが、自然物になっていけるのが一番いいと思っていて、「不自然な書」というのが最も言われたくない言葉だと思っているんです。だから、書がその建物の中にあることで、自然物のように存在できるというのが理想です。

崇:昨年、国立近代美術館で隈研吾展を見に行ったんですが、隈さんの建築からも、木漏れ日のような光の見え方や、自然に中に溶け込むような作りから、この人は森のような自然なさまを作りたいんだな、と感じました。

そうなると茶室の素材なんかも、工夫していく必要がありますね。

知:そうなんです。特に茶室は、紙を面白く使っていきたい、とは考えています。書家は紙選びが非常に重要なんですが、最近面白い紙屋さんを見つけて、そこの書用の紙を使ったら面白いかな、などと妄想しています。

それから、どこで靴を脱ぐか、というのも重要ですよね。足の裏から伝わってくる情報、というのも重要だと思っていて、それが展示で伝えたいコンセプトにも関わってくるように思うんです。

崇:無意識の体の動きで心の持ち方も変わってきますからね。

知:僕は書家でない人が書いた書、というのが好きで、「書の風流」でもそういった人々に焦点を当てました。そこで取り上げた白井晟一という建築家は、ドイツ哲学にも傾倒し、書と向き合うための建物を建てたんです。僕も書と向き合える建物として、いろんな書家さんにも表現の場として使ってもらえるものができたらいいな、と。

崇:いろんな書家の方が、それぞれのストーリーを持ってこの建物を使えるようなものにできるといいですね。

昌:なんだかまた高尚な話になってしまった。

崇:色々なゲストを呼んで、大体2、3回の打ち合わせで設計図にまで起こしていこう、という計画だったのですが、最初のゲストがいきなり壮大なお話でしたね。

昌:2、3回では終わらなそうですよね。まあいっか。流れに身を任せてみましょう。

崇:コンセプトを具体化するのに実際の茶室を見てみるのもよいかも知れません。どうでしょう次回は、もう少しアイディアを広げるために、実際のお茶室をみんなで見学に行くというのは。

昌:そうしよう、そうしよう。

知:そうですね、ぜひ見学に行きましょう!

〜今日の三尋木メモ〜

(文:山平昌子)

三尋木崇(みひろぎたかし)
1980年 神奈川県南足柄市生まれ
2004年 長岡造形大学大学院造形研究科(建築学)修了
2004年 建築設計事務所勤務(~現在)
2009年 個人的な遊びの活動を始める
 「五感を刺激する空間」をテーマに、建築と茶の湯で得た経験を基に多様な専門家と共同しながら、「場所・時間・環境」を観察し、“そこに”根ざした人、モノ、思想、風習を材料に“感じる空間体験”を作り出す。 
 普段は海外の大型建築計画を仕事としているため、日本を意識する機会が多く、そこから日本の文化に意識が向き、建築と茶の湯を足掛かりに自然観を持った空間を発信したいと思うようになり、活動を開始した。
2009年ツリーハウスの制作に関わり、2011年細川三斎流のお茶を学び始めてから、野点のインスタレーションを各地で行う。
・光の茶室(保土ヶ谷キャンドルナイト2011,14,17)、・夜光茶会(足柄アートフェスティバル2013)、・天空茶会(2016 銀座ニコラス・G・ハイエックセンター) ツリーハウスやタイニーハウスといった小さな空間の制作やWSへの参加を通して、茶室との共通性や空間体験・制作のノウハウを蓄積している。

三尋木 崇

根本 知(ねもと さとし)
かな文字を専門とする書家。本阿弥光悦の研究者でもある。2021年2月、「書の風流 ー 近代藝術家の美学 ー」を上梓。コンビニスイーツから高級スイーツまで、スイーツについて語り始めると止まらない。https://www.nemoto-s.com/

山平 昌子(やまひら まさこ)
茶道を始めたばかりの会社員。趣味でピアノも弾く。
和歌を書・表具・花とともに紹介する「ひとうたの茶席」発起人。



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