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The 1975 全アルバム聴いてみた

 今回は、2010年代以降のロックシーンにおいて最も大きな成功を収めているバンド、The 1975の音楽をまだ真剣に聴いたことがない超初心者の私が、全アルバムを1周ずつ聴いてみてその率直な感想を綴っていくという企画です。

The 1975


 彼らの楽曲は断片的には聴いたことがあるのですが、いかにして2010年代というロック氷河期においてこれだけの大きな成功を収めることができたのか?その凄さにいまいちピンと来ないまま今日に至りました。最新作も出ることだし、一度、全アルバムを通しで聴いてみたらその凄さが体感できるかな?と思い立ち、トライしてみた次第です。

 彼らほどの人気バンドともなると、既に素晴らしいレビューや鋭い考察が沢山溢れていますので、ここでは"超初心者がThe 1975の魅力を理解していく過程"という観点で見守って頂ければ幸いです。

 私のように、実はちゃんと聴き込んだことがなく、彼らの実力にまだピンと来てないという方への参考になれば嬉しいです。

 それでは早速、リリース順に書いていきます。

2013年 1st
 "The 1975"

 デビュー作にしていきなり全英1位を獲得したという本作。冒頭4曲までを聴いて、彼らが「多彩なジャンルの要素を吸収したサウンド」とよく評されていることに納得しました。ダンサブルでポップで洗練されているんだけど、軸としてロックがしっかり残されているところが良いですね。4曲目の"Chocolate"が特に良いと思いました。5曲目の"Sex"は、EMOの要素も含んだロック色の強い楽曲。「バリエーションの振り幅が広い」と言われることにもまた納得です。後半では、ギターの音が分離よく鳴り響く11曲目の"Girls"が最高のポップソングですね。正直、本作だけを聴いた限りでは、メロディとサウンドだけを取ったら、「器用に何でもそつなくこなすバンド」という評価で終わってたような気がしなくもないのですが、そこはフロントマンのマシュー・ヒーリーが持つ華やかな存在感、表現力豊かな歌唱がバンドに凄みを与え、牽引したのかなと感じました。

お気に入りトラック:Girls


2016年 2nd
 "I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it"

 衝撃のデビューから3年後、全英だけでなく全米でも1位を獲得したという2ndアルバム。サウンドとしては、モノクロな印象だった前作とは対照的に、色彩豊かなシンセポップへと変貌しています。80年代のポップスを軸に、ソウルやファンクの要素も織り交ぜ、現代的なシンセポップとして消化しています。前作のようなEMOロック的な楽曲は無くなっていますが、アンビエントなインスト曲や、R&Bテイストの強い曲など、その音楽性はより混沌を極めており、尺としても1時間超えの大作となっています。個人的には、様々な実験的アプローチを通じて、バンドとしての引き出しの多彩さは存分に伝わったのだけど、アルバムの輪郭はぼやけてしまったのかなと。デビュー作は全16曲をさらりと聴けたけど、本作は正直「長いな」と感じてしまいました。個々のシングル曲が強烈な存在感を放ったことが全英・全米1位という商業的成功に繋がったのかなとは思いますが、私としてはまだこの時点では「2010年代以降のロックシーンの頂点に立つバンド」たる所以までは感じられませんでした。

お気に入りトラック:UGH!


2018年 3rd
 "A Brief Inquiry Into Online Relationships"

 Arctic Monkeys以来となる、デビューから3作連続での全英1位獲得となったという3rdアルバム。本作によって、元々高かった評価が盤石になった印象。2010年代以降のロックシーンにおける救世主的な地位が確立されたかと。58分という相変わらずの長尺ではありますが、音像・質感に統一感があるのと、楽曲の配置のバランスがよく、しっかりと最後まで聴かせられる仕上がりだと感じました。エレクトロニカ要素が強めな冒頭4曲。R&Bやソウル、ヒップホップからの影響も感じさせる5〜8曲目。
中でも特に"Sincerity Is Scary"が印象的。根底にロックを据えつつも、こうしたトレンド的サウンドを抑えている辺りが流石の嗅覚、センスといったところでしょうか。また、『ネット上の人間関係についての簡単な調査』というタイトルにも表れている通り、現代のSNSの発展における人と人との繋がりが作品全体の一貫したテーマとのこと。こうした、時代を切り取る社会性・感性も、彼らがリスペクトを集める大きな要因なのでしょう。"It's Not Living (If It's Not With You)"のような軽快なキラーチューンをしっかりと収録している辺りも抜け目がないなと。背景も含めてですが、この作品を聴いて、彼らが絶対的な存在になれた理由が分かった気がしますし、名盤という評価には納得できました。ただ、一聴して全貌が理解できてしまうような分かりやすい作品ではないと思うので、現時点ではまだ1stの方が好きです。更に聴き込んでいけば変わっていくかと思います。

お気に入りトラック:It's Not Living (If It's Not With You)



2020年 4th
 "Notes On A Conditional Form"

 収録曲22曲、総再生時間1時間20分という、とんでもない超大作。前作で盤石の地位を得て大きな注目を浴びる中での、いきなりの荒々しいパンクナンバー"People"に面食らうや否や、続くは美しきインスト曲"The End(Music For Cars)"、そしてエレクトロなアップテンポナンバー、"Frail State of Mind"。この目まぐるしい展開、情報量の多さに圧倒されるばかりです。その後も、様々なジャンルの楽曲が入り乱れており、過去作と比較しても、楽曲の統一性が無くバラバラなはずなのですが、不思議と散漫な印象は受けませんでした。むしろ聴きやすいくらい。これは何故でしょう、一聴しただけでは分からないマジックがかかっているとしか言いようがありません。ただ、22曲はさすがに多いですけどね(笑)。フォーキーな"The Birthday Party"は純粋にソングライティングが素晴らしいですし、キャッチーなギターポップの"Me & You Together Song"も良いフックになっています。80sポップス全開な"If You're Too Shy (Let Me Know)"もとにかく楽しい。そして締め括りはバンドへの愛を綴った曲だという"Guys"のあまりにも優しいサウンドとソングライティング。この作品、個人的には一聴してかなりのお気に入りになりました。

お気に入りトラック:If You're Too Shy (Let Me Know)



2022年 5th
 "Being Funny In a Foreign Language"

 全11曲で44分という、過去に無いコンパクトさが話題を呼んでいる最新作。ジャケットからして過去作とは質感が異なりますね。2曲目の"Happiness"は従来の80年代ポップスを軸としながらも、メロディ・サウンドメイクの面でその洗練ぶりが際立っています。4曲目の"Part Of The Band"は円熟味のあるオルタナティブ・フォークで、ソングライティングが素晴らしい。6曲目の"I'm In Love With You"は変に捻ることのないどこまでもキャッチーな楽曲ではありますが、素直に良いと感じました。10曲目の"About You"はシューゲイザーの要素に溢れながらもポップソングとしての形が崩れることのない、強度の高い名曲だと思います。これらの楽曲の合間にも、ミニマルで洗練された、ハイクオリティな楽曲たちがバランスよく配置されており、サウンドの統一感も素晴らしいです。その辺りはJack Antonoffの手腕によるところも大きいのでしょう。ただ、『緻密で完成度が高い』ことは疑いようがないと思いますが、中には『小綺麗にまとまってしまった』『ぶっ飛んだアイディアが欲しかった』という意見もあるかもしれないとは思いました。その辺りは、古くからThe 1975を支持してきた層の方々がどう評価するのか、気になるところ。新参の私としては、純粋に素晴らしい作品だと思いました。

お気に入りトラック:About You




最後に、個人的に好きだった順番を。
1. Notes On A Conditional Form (4th)
2. Being Funny In a Foreign Language (5th)
3. The 1975 (1st)
4. A Brief Inquiry Into Online Relationships (3rd)
5. I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it (2nd)

 暫定1位は、ごちゃごちゃ感満載なハズなのに何故か統一感を感じてしまった4th。純粋なクオリティで言うと、間違いなく最新作が一番だとは思いますが、一番の衝撃は4thでした。一般的に最高傑作とされている(?)3rdは、これから聴き込んでいくにつれて印象も変わってくるでしょう。

 結論としては、個人的には決してストライクゾーンど真ん中な音楽性ではないものの(笑)、どこか憎めないというか、バンドとして愛される要素みたいなものは確かに感じ取ることができました。ここまで華やかで魅力あるバンドはなかなか居ないでしょう。これからもっと聴き込んでいきたいと思います。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。


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