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[MMCJ修了生インタビュー]青木篤子さん:東京交響楽団首席ヴィオラ奏者

ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン(MMCJ)は2001年の開講以来、数多くの修了生を輩出しています。20数年の間に、当時若手だった参加者も、着実に音楽家としてのキャリアを築いてきました。この連載では、現在国内外で活躍する修了生の方にMMCJの思い出や音楽人生について語っていただきます。
第1回は、東京交響楽団で首席奏者として活躍するヴィオラ奏者の青木篤子さんです。

第1回 青木篤子さん(2001年MMCJ参加)

ヴィオラとの出会い

両親が学校の音楽の先生だったので、小さいころから母にピアノを習い、小学校1年生からヴァイオリンを習い始めました。両親とも吹奏楽の指導をしていたので、子どもにはちょっと違うことをさせたかったようですね。弟もヴィオラ奏者(札幌交響楽団副首席奏者 青木晃一さん)なのですが、弟のほうが背が高かったので、先に高校からヴィオラに転向しました。私がヴィオラを副科で弾き始めたのは、大学4年生の時です。
大学2年生の時に組んでいたカルテットではセカンドヴァイオリンを弾いていました。その時にヴィオラを弾いていた同級生の師匠である岡田伸夫先生がとても素晴らしく、私も岡田先生に指導いただきたいという気持ちもあり、また弟が先にヴィオラを選んでいたということも後押しとなって、ヴィオラに変えました。もともと、低い音のほうが好きだったというのもあります。

大学卒業後にヴィオラに転科して研究科に進み、MMCJに参加したのはその年の6月です。当初MMCJに参加予定だった方が来られなくなり、カルテットが組めなくなるからということで急遽お声がけいただきました。実は岡田先生には内緒で参加したんですが、あとで「なんでひとこと言ってくれなかったの」と言われ、謝ったのを覚えています(笑)

カルテットとオーケストラ、両方を経験するということ

MMCJの大きな特徴は、カルテットに加えてオーケストラのレッスンもあることだと思います。前半でカルテットもすごく勉強して、濃い時間を過ごすんですけれど、オーケストラで弾くのはこれとは全く感触が違います。弦楽器だけの講習会と違い、管楽器のみなさんも一緒に3週間という期間を過ごしますから、当時はいろんな方と交流しました。音楽という共通言語の中で、楽器も国籍も違ういろんな方と出会えたというのは、すごい刺激になりました。
たとえば3歳から楽器をやっている人と、管楽器のように10代になってから始めた人とでも、価値観は変わってきます。でもオーケストラで一つの曲をやるときには最終的にいろんな価値観の人が同じ方向を向くわけです。
オーケストラは社会の縮図と言いますが、その縮図を若い時にすごく短期間でも濃く感じられるというのはすごくいい経験です。私は東京交響楽団に入って15年経ちますが、ようやくしっくりきたと思えるのは10年めぐらいからですね。カルテットはカルテットでもちろん難しいんですけれど、オーケストラはいわば大きな室内楽ですから、関わる人が多い分、やはり大変な部分はあります。
ただやはり、首席奏者として思うことは、弦楽器の首席奏者とのコミュニケーションの上で、例えばベートーヴェンをカルテットで弾いた経験は、たとえばオーケストラで「第九」などのシンフォニーを演奏するときにも応用できるんです。ですからカルテットの経験がたくさんあれば、基本として心強い自分の支えになります。

2001年参加時、ヴィオラセクションのメンバーと

オーケストラのコツは「遠い人ほど仲良くする」

オーケストラは弦楽器に加え、管楽器や打楽器が加わっています。私が心掛けていることはなるべく自分の専門楽器以外に友達を作るということです。距離的に何メーターも離れた楽器の人と仲良くするんです。近所の楽器と分かり合えるのは当たり前ですから。なるべく、ヴィオラとは違う発音原理の楽器を理解し、寄り添い、交わる。遠くの打楽器の人と何かあったらちゃんと行ってしゃべろうとか、ハープの音は絶対にキャッチしようとか。そのような心づもりでどれだけ遠くの人の”気”を感じられるかが大事ですし、オーケストラを楽しくするコツだと思います。
そこに指揮者という存在もあります。一人ひとりがやっていることはそれほど変わらないかもしれませんが、指揮者が与えるちょっとずつの変化が、オーケストラ全体になると何十倍にもなり、サウンドがガラッと変わります。それが醍醐味ですよね。究極のチームプレー。

チームプレーに必要なのは「自立」

チームプレーって、ただ群れるのとは違うんですよ。
プレーヤーとしてちゃんと自立していないと、チームプレーにはならない。
だから若い音楽家の方に申し上げたいのは、もし新しい環境に行ったら、自分とは正反対の人を見つけて何とかしゃべってみるということです。私も人見知りで、若いころはあまりできなかったのですが。大人になって仕事をする上では絶対に必要な話なんです。
ただ群れるのではなくて、なれ合いになるのではなくて、できる限りいろんなことを表現したい、冒険してみたいと思うのならば、自分の殻に閉じこもっていてはだめです。まるっきり違う方向にいる人の考えも、自分が今までいいと思ってなかったことも、チャレンジしてみようという気持ちが大事です。
MMCJは、先生も生徒も日本人だけではないというのもいいところです。文化や言語の違う人とコミュニケーションをとらなくてはなりませんから。

ヴィオラの講師はフランス人のマーク・デスモン氏。

ワクワクしながら、壁を越える

MMCJに参加したとき、私はまだヴィオラに転向して2か月ぐらいでした。その頃は、初めてのことが楽しくて仕方なかったんです。今のほうが、怖いことは多いです。失敗できませんし。だけど当時は、すごくうまい人たちとたくさん出会って、もっと上手くなりたいという自分の課題を見つけつつ、でもすごくワクワクしていたんです。そのワクワクがないと、やっぱり続けられない。つらいだけでは壁を越えられません。何か「やばいぞ」と思うことがあったときに、ワクワクしながらドキドキしながら壁に当たり、越えたいと思いながらやってきたのが自分のヴィオラ人生です。その初期に経験できたかずさでの濃い時間は、今でも忘れられません。

(聞き手・文:前田明子)


青木篤子(東京交響楽団 首席ヴィオラ奏者)

桐朋学園大学、同大学研究科を経て、洗足学園音楽大学ソリストコースにて学ぶ。ヴァイオリンを藤井たみ子、東儀幸、原田幸一郎の各氏に、ヴィオラを岡田伸夫氏に師事。第15回宝塚ベガ音楽コンクール、第2回名古屋国際音楽コンクール、第2回東京音楽コンクールにて、それぞれ第1位を受賞。倉敷音楽祭、ヴィオラスペース、サイトウキネンフェスティバル、東京のオペラの森等に出演。これまでにソリストとして東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団と共演している他、2012年にはオペラシティ主催リサイタルシリーズ「B→C」に出演。またヴェーラ弦楽四重奏団メンバーとしてベートーヴェンの弦楽四重奏ツィクルスに取り組むなど、室内楽の分野でも幅広く活動している。

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