見出し画像

(音楽話)56: Chick Corea “Livestream Day32 Piano Improvisation Landscape” (2021)

【永遠】

Chick Corea “Livestream Day32 Piano Improvisation Landscape” (2021)

2021年2月9日、Chick Coreaが亡くなっていたことが公式にアナウンスされました。79歳。死因は「最近発見されたレアな形をした癌」だそうです。コロナ禍でも精力的に発信していただけに、非常に残念です。

1941年米国チェルシーの生まれ。4歳からピアノを習いジュリアード音楽院に進学、64年頃からミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせました。68年には前任Herbie Hancockに代わりMiles Davisのグループに参加。Milesから受けた影響はあまりに大きく、それまでアナログ志向だった彼がエレピを弾くようになり、アヴァンギャルド/即興的な音楽に傾倒していきます。71年にReturn to Foreverを結成、72年の同名アルバムはフュージョンの到来として位置づけられ、尚且つ誰も超えらえれない金字塔として今も語られる名アルバム。72年に発表された”Spain”は彼の代表作として多くのカヴァーを生みつつ、彼の音楽性はジャズ、フュージョン、ラテン、クラシック、ボッサ、ロックなど多岐に亘り、その柔軟性と着想の豊富さは他の追随を許しませんでした。ちなみにグラミー賞は通算67回ノミネート、23回受賞。もちろんジャズ部門では歴代最多です。

上原ひろみとの共演も記憶に残るところ。彼女を高く評価していたChickは、2008年にアルバム「Duet」を共同リリースし、来日公演も行いました。上原は彼からその自由でジャンル不問のフレージングの数々を大量に浴びたでしょうし、そこに触発されたことは間違いないでしょう。
上原の例だけでなく、Chickは日本との繋がりが深かった。散々聴いてるのに知らなかったのですが、FMラジオ局「J-WAVE」の交通情報のジングルも彼の手によるものだったそう。

J-WAVE Jingle for Traffic Information

今回ご紹介する映像は、彼の公式YouTubeにアップされた、生前最後の更新。日付は2021年1月15日。コロナ禍、少しでも音楽を発信し人々を喜ばせたり励ましたりしようとしていた彼は、即興で音楽を度々届けてくれていました。
インプロヴィゼーション、というとどうしても小難しいというか、曲構成が自由過ぎて意味を捉えることに難儀するというか、そんなイメージが私にはあります。でもChickの手にかかると、そのテクニックの確かさ、引き出しの多さ、発想の奇抜さなどが、淀みなく流麗に流れていくピアノの旋律によって感覚的に分かりやすい形で開陳されていきます。そして音色がとても心地良い。音階を広く使い、休符(音のない瞬間)ですら空間を埋めるかのように「無音が鳴っている」。確かな下地がなければ到底できるものではありませんが、彼の演奏を観ているとまさに天才だと感じます。演奏の最後、笑顔と「はー楽しかった」というような表情がたまりません。ピアノと会話しているのではなく、ピアノと遊んでいるなによりの証拠。
天才というか変態ぶりという意味ではこちらもどうぞ。Mozartの”ピアノソナタ”とGeorge Gershwinの”Someone to Watch over Me”をミックスしちゃった演奏。恐ろしいくらいのすんなり感。聴いてるこっちまでニヤついてしまう笑

心からご冥福をお祈りいたします。そして彼方で、数々の巨人たちに「おーようやく来たか」と温かく迎えられ、早速セッションを楽しんでいることを願います。

(紹介する全ての音楽およびその動画の著作権・肖像権等は、各権利所有者に帰属いたします。本note掲載内容はあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?