(音楽話)133: Teddy Swims “Please Come Home For Christmas” (2020)
クリスマス特集 #3 「やさぐれて、クリスマス」
ヒト: Teddy Swims
これを書いている2024年12月時点、来年の話で恐縮ですが67th Grammy Awardsが2025年2月2日、米国ロサンゼルスで開催されます。既に各賞候補が発表され、大きなところでは「Record Of The Year」にBeyoncé, Sabrina Carpenter, Billie Irish, Kendrick Lamar, Taylor Swiftなど、「Song Of The Year」にLady GAGA & Bruno Mars, Sabrina, Billie, Kendrickなど、大物の多数ノミネートで誰が受賞するのか注目されています。特にSabrina Carpenterが新人でありながら主要部門に入っているのは注目で、既に米国ではスターですが今後さらに注目が高まると思われます。
(以下動画はSabrina "Please Please Please"=今回のGrammyにノミネートされた楽曲です。女子の素直な本音を直球で訴えていて、それをブラック・ユーモアに変換しているMV。それ以外の楽曲も彼女面白いですよ)
「Best New Artist」にも当然Sabrinaはノミネートされていますが、Teddy Swimsも入っていて、遂に彼もここまで辿り着いたんだと思うと、私はちょっと感慨深い気持ちです。というのはここ2年ほど、SNSで彼をフォローしてその成功の過程を観てきたからです。
1992年米国ジョージア州生まれ(意外と若いので驚き)。父親の影響でMarvin Gaye, Stevie Wonder, Al Greenなどの王道R&Bに触れつつアメフトに精を出す少年だった彼は、高校時代に演劇コースを受講して歌う喜びに目覚めます。地元コンヤーズ近くの大都会アトランタで音楽キャリアをスタートさせ数々のバンドでヴォーカルを務めると、2019年からYouTubeに歌唱動画をアップし始めます。レパートリーはMichael Jackson, Lewis Capaldi, Chris Stapleton, Amy Winehouse, H.E.R.など、ジャンル不問で彼の琴線に触れた楽曲を次々とカヴァーし、徐々に注目されていきました。その結果トントン拍子で同年12月にはWarner Recordsと契約、その後いくつかのシングルを出して注目度が高まっていった先に、2023年6月リリースの"Lose Control"の大ヒットが待っていました。
この曲、SNSで一時期やたら流れていたのでご存知の方も多いと思います。今まで何を吸い込んできたんだと思わせる重くて深いハスキーな声質を、時に囁くように、時に割れるように、自在に操って身悶える心境をシンプルなバックと共に紡ぐ。聴いたことない方はぜひこの機会に。歌の力とはまさにこのことです。
以下の動画は、Teddyと同様いやある意味それ以上に歌のバケモノ(と私が思っている)Kelly Clarksonとのデュエット・ヴァージョンな"Lose Control"。バンドの高まりと共に、嫌になるくらい歌が迫ってきます。
現代の若者の夢の掴み方=SNSで好きなもの・得意なものをアップし、オススメに現れ再生回数が増え、メディアや企業が注目し、メジャーの世界へ羽ばたいていくーーーTeddyもその典型のひとりと言えます。いわゆるSNSへの動画アップが下積みということであるならば、昔とは随分様相が異なりますよね、これも時代の表れです。
果たしてTeddyは「Best New Artist」受賞なるかー注目してGrammy授賞式を待ちたいと思います。
曲: Please Come Home For Christmas
元々は、シンガー/ピアニストCharles Brownによる1960年の楽曲(Snoopyの飼い主の丸頭な男の子ではありません、名前似てますが笑)。大ヒットというまでではありませんが徐々に米国で浸透し、Eaglesが78年にシーズン・シングルとしてカヴァー、ヒットしたことで認知度が上がった曲です。他にもBon Jovi, Aaron Neville, Kelly Clarkson, B.B. Kingなど、本当に多くのシンガー、ミュージシャン、バンドがカヴァーしています…日本ではほぼ認知されていないのが少し残念なくらい、素敵な曲です。
今回のTeddyによるカヴァーは、2020年のEP発売とYouTube向け特番としてアップされた動画の一部。様々なクリスマス・ソングを歌っているのですが、この曲が特に素晴らしい。
オリジナルに非常に近いアレンジで、ゆったり、少し後乗りなリズム=ほぼブルース。丁寧ながらも、所々で見せる感情の押し引きを声の荒さで魅せていくTeddy。間奏のギターが抑え目で、歌世界の静けさをしっかり表現している点も素敵。
クリスマスだっていうのに君はいない、せめて新年には戻っておいでよ、もう一度一緒にハッピーになろうよ、というシンプルな歌詞。そしてきっと「君」は戻ってこないと分かっている、主人公の心情が見え隠れします…ブルースですねぇ。
誰にだってクリスマスは舞い降りる
ただただハッピーなクリスマス、なんてありません。誰にだって祝福をと言いながら、実際この世の全ての人が幸せな時を同時に過ごす瞬間なんて訪れません。なぜなら、各々が各々の時間の中で人生を生きていて、その瞬間に出くわす物事が異なるから。
幸せな人、怒れる人、悲しい人、楽しい人、みんな違う。平等/Equality(全員に同じ量を分け与える)と公平/Equity(全員が同じ量になるよう分け与える)と公正/Justice(全員に横たわっている障害を取り除く)は似てるようで全然違うとよく言いますが、少なくともクリスマスって平等にやってくるのであって、公平にはやってこないーそう思います。
誰にもクリスマスは舞い降りる。でもその状況は人それぞれ。
だからせめて、あなたがクリスマスを楽しむことができるなら、それをかけがえのない一瞬として大切にしてほしいーーーなんて、柄にもなく思った次第です。
意訳: "Please Come Home For Christmas"
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