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音楽家のジストニア改善に役立つ、身体技法や療法

この記事は『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』の補足、深堀りです。
この回は、「音楽家のジストニアの治療法」から、身体技法と民間療法を分けたもので、おすすめ本を追記しています。

ジストニア改善のための身体技法

身体技法をやるといい理由

身体技法を取り入れることは、ジストニアの改善に役立ちます。
理由を、わかりやすくするために2つに分けて説明します。

1つ目は、体がリラックスすることで、精神的にリラックスする効果があります。

ジストニアであるという不安や怖さは、自覚しないうちに体をかたくします。それでなくても、自覚しない運指での力みか、心理的負担がある可能性があります。体をゆっくり動かしてかたさをほぐし、精神的にリラックスします。

2つ目は、体に意識を向けることによって、神経系が変化しやすくなります。
私たちは自分でも意識しない神経回路によって、自動的に体やパーツを動かしたり、考えたりします。いつも同じ姿勢をとったり歩いたり、考えたりします。演奏も、奏法の神経回路があることによって、手のことを考えなくても、手が動いて楽器を弾けます。
 →演奏の動きのコントロール
しかし、自動で動いていると、脳の神経系は新しい回路を生み出しません。自動的な動きは、変えたいと思うパターンを強化してしまいます。

一方、動きを意識することで、脳の神経系は新しくなります。自動ではなく意識を集中して動くことは、新しい神経細胞の回路を作ります。動き、感覚など様々な新しい情報を取り入れて、神経同士が新しくつながます。
脳の神経系は、新しい動きをしたり、新しく聴いたり触ったり感じたりすることで神経回路を作ります。つまり、学びます。これを、脳の神経可塑性(ニューロプラスティー)といいます。これは乳幼児期が一番活発ですが、近年、高齢者でも脳の神経可塑性があることがわかりました。

脳の神経細胞のつながりやすさは、神経伝達物質によって変わります。脳で作られる神経伝達物質は、感情によって量が増減します。楽しい、気持ちいい、好奇心を持って動くとき、脳の神経細胞同士は新しくつながりやすく、学びやすくなります。不安、難しさ、焦りといった感情で行うと、逆効果になってしまいます。

以上、身体技法を取り入れることで、リラックスし、かたさや精神面を軽くします。また、新たな神経のつながり、神経可塑的な変化を起こりやすくします。

身体技法はたくさんありますが、ここでは音楽家が取り入れやすいものを紹介します。ヨガ、アレクサンダーテクニーク、フェルデンクライス、野口体操について簡単に説明します。
他にも、ウォーキング、ジョギング、筋トレをして気分がスッキリするのもいいです。

本『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』の4章に、自分でできる方法を載せています。楽器の椅子でやるストレッチ、姿勢に目を向けたり、楽器でゆっくり動いたり、呼吸改善レッスンや自分でできるトラウマ療法などを載せています。

ヨガ

一般的なヨガは、柔軟性や美容を目的にしていますが、元々ヨガは、瑜伽(ユガ)という仏教の修行法でした。つまり、雑念を払って心を落ち着かせる瞑想の手段でした。

身体技法としてヨガをするには、きついポーズをがんばるより、自分の体内に目を向けることを重視するといいです。体内の感覚に意識を向けたり、筋肉の伸びを感じると、とてもリラックスします。

つまり、ここで紹介するヨガを始めとする身体技法は、自分の体の内を感じる、体内を感覚することが目的です。自分の体内に意識を集中して、リラックスする。それが神経系の治癒や、新しい神経回路を作りやすくします。

ストレッチ

新たにヨガを学ばなくても、ゆっくりストレッチすることでもできます。
ストレッチして、どこが伸びているか? 体を観察するように意識を向けます。

ゆっくり動いて、引っ張られている筋肉が伸びている感覚を味わいます。筋肉は伸びていると、さらに弛むので、ますます伸びます。筋肉が伸びて弛むと、とてもリラックスします。

瞑想

ここでは割愛します。すいません〜。

アレクサンダー・テクニーク

俳優だったF.M. アレクサンダー (1869-1955)氏が、声が出なくなり、首の後ろを縮めていたことに気づく。首の緊張がなければ声が楽に出て、生来そなわっている能力を発揮できることがわかりました。

心身の不必要な緊張に気づき, これをやめることを学習します。その手がかりとして頭・首・胴体の関係が重要で、教師の手と言葉を通して伝えられます。(日本アレクサンダー・テクニーク協会より)
認定を受けた教師が、受講者の頭の位置などを、手で導いて指導します。

バーバラ・コナブル『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』誠信書房
トーマス・マーク他『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』春秋社

フェルデンクライス

1940年代、モーシェ・フェルデンクライス博士による。ソルボンヌ大学工学を卒業した物理系研究者で、柔道家。膝を故障して、大脳・神経生理学、生理学、解剖学、心理学、精神医学、系統発生学、ヨーガ、柔道などを基に探求して、フェルデンクライスメソッドの基礎を確立した。

身体に心地よい動き(腕や脚などの部分的、または全身の動き)を通し、全身の骨格や筋肉がどのように連携して動いているのかを詳細に体験することで、脳を活性化し、神経系を通してより自然で質の高い動きと機能を身につけていく。余分な力を使わずに効率よく楽に動くかを学習する。(日本フェルデンクライス協会より)
神経可塑性の先がけと言えます。

マーク・リース他『フェルデンクライスの脳と体のエクササイズ』晩成書房

野口体操

東京芸術大学名誉教授・野口三千三(1914〜1998年)によって創始。当時、芸大生から「こんにゃく体操」と呼ばれました。

動きの在り方を、「力を抜く」でさぐっていきます。頑張りをすて、体の力を抜き重さに任せることによって生まれる気持ちのいいを動きを基本としています。(野口体操公式ホームページより)
やわらかさ、バランス、感覚を重視します。
最初は理解しづらいですが、身体哲学とも言えます。現在は、ピアニストの羽鳥操先生や他のお弟子さんが、指導をされています。

ほか、桐朋学園の矢野龍彦先生による「骨体操」など、ブログに載せています。『音楽家の身体技法ー姿勢がよくならない訳』

参考本↓ 野口三千三『からだに貞く野口体操』春秋社
『原初生命体としての人間』岩波書店

どの身体技法がいいかは、どれでも構いません。体は普遍的で、やり方や教え方が違っていても、体の状態や動きに目を向けることは、共通しています。
ご自分がやってみたいものでいいですし、絶対やらないといけないこともありません。

他の療法

電気治療(興奮性の調節)

〈経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)〉
微弱な直流電流を用いて大脳皮質興奮性を増減させる非外科的な手法。
古屋晋一准教授によるtDCSとリハビリテーションを組み合わせる方法

過去には、tDCSと指節関節固定スプリント併用の試みも慶應義塾大学で行われた。

鍼治療

指のジストニアに関しては、効果がないようですが、筋肉、口輪筋等においては、効果があるようです。
保険適応外。

睡眠療法

心理療法のひとつで、国内でイップスに対して民間機関で行われています。海外では、精神医療で心的外傷後ストレス障害などに対して用いられます。
催眠状態に入って自分の無意識の部分と向き合いながら、原因を探ったり、解決の糸口を見つけたりします。

専門のサイコセラピストは日本には少ない。高額。

リハビリや手術については、「音楽家のジストニア、主な治療法」に載せています。

『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』
春秋社のページへ 目次あり♪
Amazonページはこちら♪

新堂浩子HP;https://www.music-body.com/

3/22発売の本『演奏不安・ジストニアよ、さようなら:音楽家のための神経学』にまつわる記事をアップしています。 読みたいと思われている方、読んでもっと理解したい方のために、 わかりやすい説明、補足や裏話を載せていきます♪