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音楽家のジストニア、主な治療法とその利点欠点

この記事は『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』の補足、深堀りです。
この回は、フォーカルジストニアの主な治療法についてです。
「身体技法や療法について」は、別ページに分けてあります。

よくやられている方法

リハビリ(動きの訓練、トレーニング)

奏法の改善。自分で取り組むケースや、指導している人から受ける人も多い。
手指の感覚と運動を再学習するリハビリ法(Sensory motor returning=SMR法など)、整形外科医の酒井直隆医師が考案したスローダウンエクササイズ(『どうして弾けなくなるの?』p.165参照)がある。
指導を受ける場合、指導者の経験に基づくものが多い。

リハビリは長期にわたることが多く、精神的な負担がかかりやすい。がむしゃらにやったり、やらなくてはと自分を追い込んだり、うまくいかずショックを受けたりすると逆効果になります。
もともとジストニアになる人は熱心に練習する人が多く、かつ、誰しも自分の精神的な負担に気づけません。懸命に取り組んでしまうと、患部の症状を悪化させてしまったり、代償の動きを強めてしまうことがあります。

リハビリは、誰もが絶対によくなるというものでもありません。

感覚トリック

ギターなどで、指に輪ゴムをかけたり、弾かない指にピックを握っておくなど、軽い刺激を与える。物に触っている感覚が神経回路に影響し、筋緊張が改善、ジストニア症状が軽くなる。
ジストニアかもしれない人、症状の軽い人にお勧めです。

スプリント装置で固定、可動制限

患指に対してシーネ(副木)など固いもので、不随意運動を物理的にブロックする方法。ある程度動かせるものを使う場合もある。
感覚トリックと運動制限の両方で混合させてやることもある。

以上、『どうして弾けなくなるの?〈音楽家のジストニア〉の正しい理解のために』音楽之友社 より

医療として受けられる治療

薬物療法(内服薬)

・トリヘキシフェニジル(アーテンなど)パーキンソン治療剤
神経伝達物質アセチルコリンの働きを阻害することで、筋肉の不随意運動による筋強剛や振戦などを抑制。

・ベンゾジアゼピン系(リボトリール)抗てんかん薬
・非ベンゾジアゼピン系(マイスリー)抗てんかん薬

・β遮断薬(アロチノロールなど)
骨格筋にあるβ2受容体を阻害する。「本態性振戦」に対して処方される。

ジストニアに対する投薬治療は、各薬剤の適切な服用量が確立しておらず、効果は見られていません。本人が改善したと思えるほど増量することもなく、中断するようです。

ボツリヌス毒素(ボトックス)注射

ボトックス注射によって、筋肉が過度に収縮しなくなります。ボトックス注射は、顔の皺を伸ばす目的で、美容医療に用いられています。
ボツリヌス菌が産生する毒性タンパク質が、シナプスでのアセチルコリンの放出を阻害し、神経から筋肉への指令をブロックします。麻痺を起こさずに筋肉の緊張を和らげる作用があります。

利点として、注射なので外科的侵襲は小さい。
痙攣性発声障害には2018年より保険適用となりました。ジストニアには保険適用外。

効果は出ても3カ月程度で、繰り返し注射する必要があります。ターゲットとする筋肉のみに注射しなくてはならず、技術的に簡単ではない。副作用の多くは筋脱力で,治療筋の選択の誤りや投与量の不足。主な副作用は、注射痛、軽度の嚥下障害、後頸部筋力低下。

脳外科手術について(定位脳手術)

『そのふるえ・イップス 心因性ではありません』平孝臣、堀澤士郎
サイト、東京女子医大脳神経外科>専門治療紹介>機能神経外科>定位脳手術 より引用します。

脳深部に細い電極を置き、脳の視床や淡蒼球を熱凝固または電気刺激をすることで不随意運動が改善します。ある症状の改善に有効な脳の部位があることがわかり、その部位を定めて行うので「定位脳手術」と呼ばれています。

〈高周波凝固術、熱凝固術〉
脳の視床に、直径1ミリの電極を挿入し、高周波電流で約70度に加熱する。リアルタイムで楽器を演奏して、症状が改善するか確認してから、熱凝固を行う。
合併症として、しびれ、軽い麻痺から、重篤なものまで起こりえます。脳出血を起こして、寝たきりや命に関わるような事態の可能性がないわけではない。重い後遺症が残るのは極めて稀で、術後、話しにくい、手や足に力が入りにくいという合併症が出ることがある。熱した部分の周りに浮腫(むくみ)が生じるためで、時間がたてば改善します。
利点としては、ジストニア症状の改善はすぐに表れます。また、脳手術でありながら、全身麻酔でなく局所麻酔で行われます。

一方、外科的侵襲を受けます(メスを入れるということ)。術後に半身や手自体の動きが悪くなるケースは、珍しくありません。術前の予測が困難です。
よくある合併症として、演奏部位全体や他の部分の運動障害、奏法、書字、発語、飲食、歩行などが困難になったり、計算など思考に支障が生じることもあります。
ほとんどの方は、術後に身体や奏法のリハビリが始まり、回復に時間がかかるケースが多いようです。「ジストニア体験集2 手術症例」に、手術された方の体験談をリストアップしています。

本『そのふるえ・イップス 心因性ではありません』平孝臣、堀澤士郎
サイト、東京女子医大脳神経外科>専門治療紹介>機能神経外科>定位脳手術

〈脳深部刺激療法(DBS)〉
脳に細い電極を留置し、胸に電気刺激発生装置を植え込んで、継続的に弱い電流で刺激する方法。
パーキンソン病や音楽家でない方のジストニアにおいては、脳の淡蒼球内節、視床下核という部位に行うのが最も効果的とされている。機械の不具合、感染症、一定期間でのバッテリー交換手術の必要性、MRI撮影が困難など、問題点があります。

新堂浩子HP;https://www.music-body.com/
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