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バッハを聴く フランチェスコ・トリスターノ

フランチェスコ・トリスターノのピアノリサイタルを横浜のフィリアホールに聴きに行ってきました。

フランチェスコ・トリスターノってどんな人?

ルクセンブルク出身の異才ピアニスト。ルクセンブルク音楽院、パリ市立音楽院等で研鑽を積んだ後、ジュリアード音楽院にて修士号を取得。
ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティヴァルをはじめ著名な音楽祭に参加するほか、ヨーロッパ、アジア、アメリカで演奏活動を展開しています。日本にもコンスタントに来日。
作曲家としてソロ・ピアノやジャズ・アンサンブルのための曲を作るほか、テクノ音楽も活動のひとつの柱とし、異ジャンルとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。
ピアノという楽器一つで、クラシック、ジャズ、そしてテクノ・ミュージック業界を縦横無尽に渡り歩く音楽家です。

彼を知ったきっかけはテクノ・ミュージック

クラシック界を席巻するピアノの貴公子がテクノの名曲に挑戦した2008年「ノット・フォー・ピアノ」というアルバムがきっかけで彼を知りました。
デリック・メイの不朽の名曲「ストリングス・オブ・ライフ」やジェフ・ミルズ「ザ・ミルズ」からオウテカの「オーヴァーランド」までを取り上げたもので、
テクノ好きな私は、このピアノによる演奏にすっかりハマり、仕事をする際のBGMとしてよく聴いていました。

デトロイトテクノ「ストリングス・オブ・ライフ」をピアノ1台で表現


デトロイトテクノ「ストリングス・オブ・ライフ」をオケで



そして、先月のイザベル・ファウストのリサイタルを聴いたフィリアホールで偶然にもトリスターノのポスターを見たのです。

この公演のプログラムは、ピアノという楽器一つでクラシック、ジャズ、そしてテクノ・ミュージック業界を自在に渡り歩く彼を知るプログラム。
彼が愛しライフワークとするバロック時代のバッハ&フレスコバルディ、20世紀のストラヴィンスキー、そして清澄でリリックな自作…という組合せから生まれる独自の世界観は、トリスターノにしか創れない唯一無二の、そしてその活動を現すスローガン「音楽は音楽(Music is music)」を体感するに相応しいものです。

チラシより

これは聴いてみたい!

私が知っていた「テクノ・ミュージックをピアノで演奏しているフランチェスコ・トリスターノ」は、実は、バッハの演奏に関する探究を続け、独自の世界を築いていました。
2013年の「ブクステフーデ&バッハ」、「フランス組曲」、2015年の「パルティータ」、2017年の「ゴルトベルク変奏曲」、2023年は長大な形式美を誇る「イギリス組曲」で来日していました。

↓トリスターノ自身のレーベル「intothefuture」からの記念すべき第一弾。日本限定発売タイトルです。ジャケットデザインもいいですね。


彼の中にあるバッハ

ステージに立った彼は、とても身長の高い、イメージ通りの細身の方でした。
私は前から2列目の左から2番目という端っこの方の席でしたが、ピアノの演奏を聴くときは、演奏者の後ろ姿・背中から腕、鍵盤のタッチをみているのが好きで、いつもこの辺のポジションの席をとります。
実は、ピアノでのバッハを生で聴くのは初めて。生演奏としては専らチェンバロの演奏ばかり聴いていたので、ピアノでの演奏は新鮮な気持ちで聴くことができました。
正確で機敏なリズムと、そして古い音楽を、あたかも生まれたてのようなフレッシュな音色に仕上げたかのような気持ちのいいバッハでした。
彼の家庭では、グレゴリオ聖歌からバロックまで様々な古楽が流れていたといいます。やがて成長して、グレン・グールドの録音作品とも出会い、さらには大学でチェンバロも弾いていたそうです。
そんな様々な経験を経たトリスターノの現在のバッハを聴くことができました。

パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825

ピアノのブクステフーデ


ピアノも喜んでいる

後半はガラリと変わり、自作そして、ストラヴィンスキーの力強い演奏に驚きました。ストラヴィンスキーの《タンゴ》も初めて聴きましたが、とても素敵!です。

今回演奏したピアノはフィリアホールが3月に新規購入したヤマハ コンサートピアノCFX。トリスターノは子供の頃からヤマハを愛用しているそうで、音の質感、メカニック、そして美しい倍音が気に入っており、ヤマハの掛川工場も見学したそうです。

《ペトルーシュカからの3章》では、一気にクレッシェンドして駆け上がり、フォルテ!フォルテ!とどんどん盛り上がっていくのですが、それに喜んで応えてくれる全くもって余裕のヤマハCFX。
トリスターノももちろん余裕で弾きます。騎手と馬の関係のような、立髪を靡かせながら、一体となって走っていくダイナミックで爽快なフィナーレとなりました。

トリスターノの音楽に出会ったのは、彼がまだ20代の時でしたが、そんな彼も、もう40代に突入しました。これからますます面白いアーティストになりそうです。

ちなみに、40代とは思えないくらい、彼はとても若く見えるのですが、これは現在住んでいるバルセロナで美しい朝焼けを見ながら毎日ランニングをしているからでしょうか。演奏のためのカラダ作りもしっかりとしているんだろうなあと思いました。


おまけ: 10年前、来日した時の王子ホールでのインタビュー記事

「クラシックは死んだ作曲家の手による死んだ音楽ではなく、テクノやJ-POPや民族音楽などと同じぐらい、今現在も生命力に満ちた音楽なんです。」
https://www.ojihall.jp/topics/interview/tristano_int.html



また、来日したらリピです(笑)

<プログラム>

J.S.バッハ◎
 フランス組曲 第1番 ニ短調 BWV812
 パルティータ 第2番 ハ短調 BWV826
 イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV808
フレスコバルディ◎
 トッカータ集 第2集より 第4,9,8番
フランチェスコ・トリスターノ◎
 セルペンティーナ
 RSのためのアリア
 トッカータ
ストラヴィンスキー◎
 タンゴ
 ペトルーシュカからの3章

<フランチェスコ・トリスターノ プロフィール>

コンポーザー/ピアニスト
1981年ルクセンブルク生まれ。バロック音楽、現代音楽、テクノ音楽、自作のレパートリーで世界中を駆け巡り、またJ.S.バッハのピアノ作品全録音という意欲的なプロジェクトを続けながら、一方で電子音楽レーベルにダンス・アルバムの録音活動をしている。2004年のオルレアン(フランス)20世紀音楽国際ピアノコンクールで優勝、ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティヴァル、ルール・ピアノ・フェスティヴァル等著名な音楽祭に招待される。また一方テクノ音楽の活動では、デトロイト・テクノの偉人カール・クレイグから世界各地での公演に数多く招待され共演。2001年の初レコーディングではバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を録音。2010年3月、ユニバーサル・クラシック&ジャズ(ドイツ)と専属契約を結び、翌年3月ドイツ・グラモフォンから「bachCage」をリリース。2012年3月、京都コンサートホールでドイツ・グラモフォンCD第2弾「Long Walk」を録音、9月にリリース。2014年6月、アリス=紗良・オットとのピアノ・デュオのアルバム「スキャンダル」をリリース。2016年3月、ライプツィッヒで自作のピアノ協奏曲「Island Nation」をクリスチャン・ヤルヴィ指揮MDR交響楽団と世界初演、2017年11月すみだトリフォニーホールで、同曲をクリスチャン・ヤルヴィ指揮新日本フィルハーモニー交響楽団と日本初演する。さらに同12月には、坂本龍一の招きでグレン・グールド生誕85周年「Glenn Gould Gathering」プロジェクト(会場:草月ホール)に参加、グレン・グールドが作曲した曲等を演奏する。2017年、ソニー・クラシカルと録音契約を結び、「ピアノ・サークル・ソングス」(2017)、「東京ストーリーズ」(2019)、「オン・アーリー・ミュージック」(2022)をリリース。2023年10月、フランチェスコ・トリスターノの録音を出版するために新しく設立されたレーベル“intothefuture”からバッハの「イギリス組曲」をリリースする。2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の番組終わりの大河紀行で、フランチェスコ・トリスターノのピアノ演奏が流れた。



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