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バッハを聴く イザベル・ファウスト

横浜・青葉台のフィリアホールで開催された、イザベル・ファウストの《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》を聴きに行ってきました。

彼女は、1987年、独アウグスブルクの「レオポルド・モーツァルト・コンクール」および1993年、「パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール」で優勝し、一躍世界的に注目されました。特筆すべきは、古楽器からモダンまで、あらゆるスタイルの楽曲をレパートリーとして網羅していることです。フィリアホールでの演奏は11年ぶりだそうで、多数のリクエストがあった《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》を2日間に分けて演奏されるとのことでした。私は迷いに迷って、第2夜のほうに行きました。2日間連続でいらっしゃっている方もちらほらいて、ロビーにいると、昨日の演奏についてのおしゃべりが聞こえてきます。

私はフィリアホールに行くのは初めてでしたが、豪華客船のトップキャビンをイメージしたホールは、500席という規模ながら、上品かつ華やかな社交場のような雰囲気が漂います。今回はそんなホールの一番後ろの真ん中よりの席に座りました。客席はスロープ状になっていて、一番後ろからでも、ちゃんとお姿を見ることができる、とても良い空間です。

包み込んでくれる音色

舞台に登場した彼女は小柄で、紺色に太陽のビジュアルが施されたドレスが現代的で、ベリーショートのヘアスタイルにとてもよく似合っています。
そして、いよいよ《パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006》の演奏が始まりました。と、驚いたことに、音がスッと天井に登り、そこからふわ〜っと細かいミストのように降ってきて、ホール全体を包み込みました。楽器から音がダイレクトに響いてくる感じではなく、会場全体に音を感じる、例えるなら無重力空間にいるかのような、とても不思議な感覚でした。
これはジュークボックス型という空間の造りのおかげだからなのでしょうか?それともストラディヴァリウスだとこういう音色なのでしょうか?それとも彼女の音楽解釈による技術がすごいのでしょうか?頭の中に色々な?マークの声が聞こえてきましたが、せっかくなので、ここはこのまま素晴らしい体験をしてしまおうと、気持ちよく聴かせていただきました。

私はヴァイオリンのソロコンサートは初めてでした。そのため、他の演奏家のコンサートと比較することはできませんが、とても落ち着いた芯のある美しさを感じる演奏でした。今回は3曲を休みなく一気に演奏されましたが、バッハとの向き合い方がとても真摯で、バッハ道を極める!そんなあり方でした。

作曲の背景

《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》全6曲は、1720年、バッハがケーテン侯レオポルドの宮廷楽長時代、35歳の時に完成されました。
この曲集が書かれた年の春、バッハは、最初の妻、マリア・バルバラと死別してしまいます。
しかし、その数か月後、深い悲しみが続いていただろうにもかかわらず、バッハは、 この無伴奏ヴァイオリンのための曲集を完成させました。バッハを絶望からの復活、そして再生に導いた作品であったのではと思われます。

最後に演奏した《パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004》は絶望という美しさを表現した曲だと思っていたのですが、今回はそこに復活と再生に向かう光を感じ、新たな発見ができました。


<プログラム>

無伴奏バイオリン・パルティータ第3番 ホ長調BWV1006
無伴奏バイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV1003
無伴奏バイオリン・パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004

<イザベル・ファウスト プロフィール>

イザベル・ファウスト (ヴァイオリン)
音楽的歴史文脈とそれにふさわしい楽器、説得力のある音楽解釈で世界中の聴衆を魅了し、幅広い作品をレパートリーとする。
レオポルド・モーツァルト・コンクールおよびパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール優勝。これまでに、ベルリン・フィル、ボストン響、ヨーロッパ室内管、レ・シエクル、フライブルク・バロック・オーケストラをはじめとする主要オーケストラと、アンドリス・ネルソンス、ジョヴァンニ・アントニーニ、フランソワ=グザヴィエ・ロト、ジョン・エリオット・ガーディナー、ダニエル・ハーディング、フィリップ・ヘレヴェッヘ、ユッカ=ペッカ・サラステ、クラウス・マケラ、ロビン・ティッチアーティ等の指揮者と共演。

フィリアホール:音響が素晴らしく、リサイタルにちょうど良い規模で素敵なホールでした。

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