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ピアノ練習時の疲労を分析

楽器は体を駆使して演奏するものなので、全く疲れないということはない。少なくとも、パソコン作業をしたり、机に向かって勉強したりするよりは、ずっとエネルギーを消費する。頭も体も満遍なく使うし、何より高度な集中力が必要だからだ。但し、2、3時間程度で筋肉痛になるとか、一点が痛くなるという場合には、やはりどこかに不要な力がかかっており、無理な弾き方になっていると考えられる。人の体はひとつひとつ違う上、他人の感覚を共有することは不可能なので、この無理な体の使い方の原因や改善法を探るのはなかなか難しいが、一般的に言えることを書いてみようと思う。

まず、職業的にピアノを弾く人は、毎日の日課で数時間練習するのが普通だが、それでどこかが恐ろしく疲労したり、痛くなったりということはほとんどない。それは極限まで無駄な動きを削ぎ落とした、効率的な体の使い方をしているからであり、1グラムたりとも余計な力を使わないように弾くからである。(因みにピアノの鍵盤をひとつ打鍵するのに必要な力は、30グラム程度と言われる。何音も同時に弾くことを数時間繰り返すと、ほんのちょっとの余分な力みが、キロ単位の余分な労力となる)

また、職業演奏家は自分のコンディションを熟知していて、無理がかかる前に、弾き方を工夫するからとも言える。例えば、fを出すのに、重さよりも打鍵の速さを利用する、というようなことだ。

更に、熟練する程に、テクニック的な反復練習が不要になるので、体に負担となる繰り返し練習が減るということも関係する。例えば、音階・半音階やアルペッジョ、規則的な上降下降フレーズは、どんな速いパッセージだろうと、練習せずとも弾けるからである。これは基礎音型パターンを、それまでのピアノ人生でひたすら繰り返して来たことによる。

ではどんな場合にどういった疲労が出るかというと、以下のようなものは熟練していても避けられず、対策が必要である。

まず、全体が高音域または低音域に偏った曲。これは必然的に体を左右どちらかに傾けた状態を続けるので、腰に負担がかかる。重心の位置を工夫したり、椅子の位置をずらしたり、腰痛を起こさないように注意が必要である。

次にオクターブ以上の和音が、特にffの速いテンポで長く続く場合。これは手全体に負荷がかかることは避けられず、長時間続けると手を壊す場合があるので、過度な集中的繰り返し練習は危険である。ただし、これは手の大きさがかなり関係するので、手が小さい場合、あまり無謀な曲は弾かない方が良いように思う。華奢な手でも十分表現可能な、繊細で美しい曲はたくさんあるのだ。

そして、個人的に最も悩まされるのが目の疲労。楽譜は文章よりも余程複雑な情報が盛り込まれており、ピアノの楽譜は「真っ黒」と表現されるほど、音符とその他諸々の記号の羅列である。現代音楽だと、更に複雑さは増し、変拍子と不協和音の連続だっりする。それを読み取るのは数学のような能力が要求され、目の負担が半端ではない。ただし、これは新規の伴奏譜を常に抱えているような場合で、同じレパートリーを生涯ずっと弾くような場合は、そこまで目を使わずに済む。

以上がすぐに思いつく疲労である。逆に、正しく無理なく動かしていれば疲労しないのは、こういった箇所である。

トリル
普通トリルでどこか疲れるということはない。もしあるとしたら、オクターブのトリルをffで長時間弾くような場合のみである。長い拍であっても、2度や3度のトリルで疲労することはない。トリルで手が疲れる場合、必ず不要な力が入っているので、奏法を見直した方が良い。

単音の速いパッセージ
速く弾くからといって、余計に手が疲れるということはない。むしろ、ピアノはゆっくり弾く方が疲れる。速く弾くには指の動きを最低限にして、大きな動作は控えるのが肝心である。無駄な動きが入ると、ミスが増えるばかりか、労力が増して、あっという間に疲労する。

スタッカート
スタッカートで疲れるということはあまりないと思うが、もしどこか疲労するようなら、不必要な大きな動きを腕全体でしていると思われる。速い箇所は特に、指先でスタッカートを作ることを心掛ける。

和音
ffで幅の広い和音を高速で連続させる場合、ある程度の疲労は避けられないが、和音そのものが、そこまで手に負担をかける訳ではない。もしゆったりとしたテンポであっても和音が疲れる場合、打鍵後も無駄な力を入れ続けていることが考えられる。ピアノは、音の鳴った瞬間には、既に力は必要ない。その後は打鍵のためのエネルギーは、ゼロで良く、音を伸ばす場合、単に指を置いておけば良い。もし押している感覚があるならば、明らかに余分な力を使っている。音を出す一瞬だけ力が必要なのであり、むしろリラックスしている時間の方が長いのである。これは和音に限らず、楽に長時間弾くための最重要ポイントかと思う。

以上思いついたことを書いてみたので、何かの役に立てば幸いである。個人的には、いくら集中していても、2時間に一回程度は休憩するのが適切かと思う。

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