第4話 メンタル対応の判例 ~うつ病編~

はじめに

前回は、メンタル対応では”正しく逃げ道をふさぐ”責任を企業が負っていることを説明しました。

これはメンタル不調になられた方を不当に追い詰めるというわけでははありません。

その場しのぎの対応に終始せず、長期的な見通しをもって対応すべきだという意味です。

今回は適切な対応をしなかった結果、企業が法的な責任を問われたケースを紹介していきます。

いずれのケースも示唆に富んでおり、

「え?うちの会社は大丈夫かな?」

「そういえば○○さんの対応に似てるけど、、」

と思うような内容です。

 

十全総合病院事件 2007年 


研修医がうつ病になり、勤務病院で自殺してしまった事件です。

遺族が「過重業務がうつ病を発症・増悪させたのに病院は適切に対処しなかった」として提訴しました。

病院側は早い段階で不調を察知しており、精神科の受診を勧めたり、研修医の異動を行い負担軽減をしていました。また上司もかなりのサポートをしていたことがうかがわれます。

これに対して裁判所は判決で

「研修医の心理状態に対して業務は過重なものだった」

「病院は健康や精神状態に配慮し負担を減らすべき義務を怠った」

「もっと業務を軽減するか、十分な休養を取らせて精神症状が安定するのを待ってから業務に従事させるべきだった」と指摘しました。

自殺の一週間前に、研修医は自殺をほのめかすメモを残し失踪していました。研修医はその翌日には定時に出勤し、勤務をしていたようですが1週間後に病院内で自殺をしてしまっています。

この点についても裁判所は、「自殺をほのめかしていたんだからちゃんと対応するべきだった」と述べているわけです。

東芝事件 2014年  


うつ病による休職期間の満了で解雇された従業員が「業務上の疾病」による解雇は労働基準法違反だとして、解雇無効を訴えました。

従業員がうつ病による受診や服薬を上司や産業医に申告していなかったことを巡り、最高裁は判決でこんな見解を示しています。

「うつ病や神経科受診といった情報は、人事考課に影響するかもしれないと、本人が職場に知らせないまま働き続けることも想定される性質のもの

労働者から申告がなくても、企業側は健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負う

「過重な業務が続く中で体調悪化が見てとれた場合、本人から積極的な申告が期待しがたいことも前提に、企業は業務を軽くするなど健康への配慮に努める必要がある」

これらの判例から言えるのは、企業は

「従業員に不調が疑われるようなことがあれば、本人の申し出た内容だけで判断せず、積極的に状況を確認する必要がある」

「必要に応じて受診をただ勧めるだけでなく、休ませたり、業務を軽減したりするなどの措置をとらなければならない」

ということです。

まとめ

十全総合病院事件では、病院側が受診を勧めたり業務を軽減したりしていたのに、自殺という最悪の結果になってしまっています。

この訴訟での裁判所の見解をまとめると「病院の対応が不十分だった。業務の負担をさらに軽減したり、精神状態が安定するまで休みを命じるべきだった」と述べています。
中途半端な対応を続けていた企業が責任を問われかねないと言えます。

また東芝事件では、「精神疾患などは従業員から言いだしずらいのだから、怪しい点があれば積極的に会社が手を打つべき」とまで述べています。

正直、かなり踏み込んだ対応を求めていると言えます。

要点を改めて整理すると、企業には下記が求められていると言えます。

➀メンタル不調は自分から言いだしずらいのだから、企業は積極的に確認すべきである。

不調時には、受診を勧めたり、業務を多少軽減したりするだけでは不十分である。

➂状態が安定するまで十分に業務を軽減したり、休ませたりすべきである。

今回は主にうつ病に関する判例でしたが、次回は発達障害に関する判例を紹介します

こちらでも「そこまでやる必要があるのか」と思ってしまうほど踏み込んだ対応を裁判所は求めているように見えるかもしれません。

しかし、何度も強調するように、その場しのぎの対応ではなく長期的な視野を持った対応が重要であるという示唆を与えてくれる判例でもあります。

ぜひ今後の対応の参考にしてみてください。

リンク

判例についてもっと知りたい方は下記のリンクからどうぞ。

またガチ産業医先生による「産業保健職がおさえるべき労働判例十選」もぜひご覧ください。


十全総合病院事件 → こちら

東芝事件 → こちら

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